ウッドショックはいつまで!?木材価格高騰の原因と2022年の展望BLOG DETAIL

コロナ期に端を発した木材価格の異常な高騰(ウッドショック)は、2021年の5月ごろにピークを迎え、木材価格が平常時の4倍近い値をつけるに至りました。その後、年末までに一旦値段は落ち着いたものの、2021年12月頃から再びぶり返しを見せ始め、2022年1月には再び急上昇を見せています。

そもそも木材の流通は、長い年月と複雑な流通プロセスによって形成されているものであり、右から左に、明日急にほしいといってすぐに調達できる代物ではありません。樹木を育成し(何十年、場合によっては100年以上)、伐採し、原木市場に流れ、製材加工され、製品が市場に流通し、と何層もの販売プロセスを経て、ようやく最終消費者にいきつくわけです。それゆえ、ささいなノイズによってそのサプライチェーンのどこかにゆがみが生じると、ドミノ式に流通経路に後れをもたらすこととなります。

もっとも、2019年以降のコロナ禍は、確かにそのサプライチェーンを破綻させ価格を高騰させるためのトリガーの一つにはなりましたが、その原因がコロナだけにあるわけでもありません。温暖化、貿易戦争、政治問題、環境問題や金利問題まで、今まで先進国が目をつぶってきた悪い部分が、このコロナをきっかけに十重二十重に絡み合って、今回の異常な価格高騰を招いているのです。

今回の記事では、具体的に木材価格高騰をもたらした要因と、2022年の展望について紹介していきたいと思います。

※2022年2月28日 最新情報
ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。米識者の見解によると、既に木材の市場価格にロシアの政情不安は織り込まれており、本件の木材価格への影響は限定的であるとのことです(一方でコンテナ輸送運賃の高騰など間接的に影響を被る可能性はある)。

コロナ

製品の価格は、需要と供給のバランスによって定められます。今回のコロナ騒動は、数ある製品類の中でも特に木材の市場での需要供給バランスを著しく損ねました。

ウッドショックの原因(コロナ関連)

巣篭もり需要の増加(世界)

新型コロナ登場と各国の厳しいロックダウン政策は、世界の観光業に大きな打撃を与えました。レストランの使用、パーティの開催、旅行ツアーは勿論のこと、中国や一部欧米諸国では「外出禁止令」なるものが登場し、一般市民は散歩もできないような状況を強いられることとなりました。

ドイツやイギリスはその間の休業補償を手厚くすることで、市民や会社の不満をそらすことに成功しますが、家庭の収入は維持され、本来外食や旅行に充てられていた支出が減ったため、サラリーマン達の交際費の行き場がなくなります。

リモートワークの徹底などで、家にいる機会の多くなった人々は、あまりある時間とお金を使って、部屋や家の改装に手を付け始めます。「DIY大国のアメリカ・カナダと日本のDIYリフォーム市場の違い」の記事でも書いた通り、欧米諸国においてドアや床材を自身でリノベすることは割と当たり前に行われるため、こうした木質系の建材をオンライン等で注文する人々が急増したのです。

ロックダウンの影響で町から人が消えました

新築需要の増加(アメリカ)

2020年3月、1年にわたるコロナ禍で打撃を受けたアメリカ経済界はゼロ金利政策を発令します。これによって、コロナでの失業者など、雇用の下支えと需要の喚起を引き起こそうという意図でしたが、5月のロックダウン解除、リモートワークによるセカンドハウスや郊外の家の購入需要など、様々な要因が重なり合い、結果としてこれ以降アメリカでは急激な新築着工件数の増加がみられることとなります。

製材所の作業停止や従業員削減(世界)

新築・リフォーム・DIYの需要が増加した一方で、肝心の木材供給体制がどのようになっているのかというと、コロナ禍にあってその木材生産スピードは全くと言ってよいほど需要に追いつけなくなりました。

上述の通り、木材製品の流通は多くの層が重なり合って成立しています。度重なるロックダウン政策は、各サプライチェーンの層に工場停止やソーシャルディスタンス確保のための従業員削減など、生産工程に大きな遅滞を招くこととなりました。

コンテナ不足・コンテナ代高騰(世界)

上記の状況に加え、世界的なコンテナ不足がこの木材供給問題に拍車をかけることとなります。コロナでコンテナ自体の製造が追いついていないという問題に加え、ロックダウン政策による世界の港での作業員不足や作業遅延が発生し、世界のコンテナの流通を不安定なものとしました。

また、問題を悪化させたのは、中国と欧米諸国間のコロナ政策の差です。苛烈な封じ込め政策でコロナ問題を急速に解決した(と思われている)中国では、先進国に先駆けて工場生産が復活、かたや欧米諸国はロックダウンで巣籠需要が増し、生産の回復した中国から品物を取り寄せる、という中国→欧米、への一方的な輸出が続きました。

本来であれば、船会社は到着地の港でまたコンテナを満タンにして別の港に向かうわけですが、コロナで生産の滞る欧米諸国ではコンテナを満たす量の製品が調達できず、結果として欧米の港に中国から到着し、荷物を降ろしえ終えた「空のコンテナ」が山積することとなったのです。

自然現象

上述のコロナ起点の諸問題は、木材サプライチェーンを極限まで脆弱なものとしました。そこに追い打ちをかけるように、以下の自然現象問題が加わったのです。平時であれば短期間で解決できるものであっても、コロナ状況下ではインフラの復旧までに時間を要すことなどから、結果としてウッドショックに拍車をかけることとなりました。

虫害(北米)

虫害と地球温暖化の因果関係は再三にわたり指摘されています。特に、北米では温暖な気候を好む「キクイムシ」が猛威を振るっており、特にマツの産地で知られるブリティッシュ・コロンビアは、温暖化と干ばつで虫に対する耐性自体が弱まり、近年では甚大な虫害を被っています。

また、虫そのものの害だけでなく、キクイムシの死骸はカビの温床にもなり、木材を腐らせるなど建材としての価値を暴落させます。さらに悪いことに、この虫によって枯らされた森林は乾燥し、山火事の原因になります。北米の、熱く乾燥した夏場の気候によって、こうした枯れ木は絶好の着火地点となり、山火事を多発させるわけです。

一度発生した山火事は鎮火が難しく、森林資源を消失させるだけでなく、ただでさえコロナで脆弱になった各都市のサプライチェーンをさらに寸断させることとなります。

キクイムシの被害に遭った森林

洪水・ハリケーン(北米)

BBCの調査では温暖化の影響で北米のハリケーンの数は100年前の3倍に達していると言われ、昨年も森林地帯のブリティッシュ・コロンビアに深刻な被害をもたらしました。

これによって、2021年11月のカナダ西部の週間森林供給量は30%も下落を見せ、アメリカ・カナダの建材市場に大きな影響を与えました。こうした異常気象の市場への影響は一時的なものであるとはいえ、森林に対する長期的な被害、コロナによる各インフラの遅れなども相まって、ウッドショックを助長する原因の一つとなりました。

毎年北米に深刻な影響を与えるハリケーン

政治的理由

コロナは、絶妙な拮抗を保っていた各国のパワーバランスに亀裂を生じさせました。貿易戦争、戦争準備、保護政策など、以下のような要素もウッドショックが長引く遠因となっています。

特に「ロシアの丸太原木輸出規制が日本に与える影響」の記事でも書いた通り、いまだに輸入木材への依存度の高い日本にとって、こうした各国の心理戦も対岸の火事というわけにはいかないのです。

カナダvsアメリカの関税戦争

カナダ針葉樹材のアメリカへの輸入関税が2021年末に17.99%と、従来の2倍に引き上げられました。この決断の背景には、カナダ側が針葉樹加工に不当な補助金をかけて国際競争力を増しているというアメリカ側の訴えが色濃く反映されており、これによってアメリカは自国産の木材をより多く流通させたい、という意図を持ちます。

結果として、アメリカ国内の木材価格は高騰、特に日本のように輸入材に頼る建材市場は大きな影響を受けることとなりました。

アメリカの環境保護路線

経済重視で環境保護政策を削減した前トランプ大統領の路線を大きく変換し、バイデン大統領は環境保護路線へ舵取りしています。最も、アメリカ国内で伐採可能な木材の量を減らしたバイデン大統領の政策は、上述の関税政策と相まって、アメリカ国内の木材インフレを加速させることとなりました。

結果、アメリカはヨーロッパやオーストラリアなど、世界各国の木材の調達に走ることとなり、世界の木材需要供給バランスに大きなゆがみがもたらされたのです。

バイデン大統領

ロシアの木材産業保護

ロシアの丸太原木輸出規制が日本に与える影響」の記事でも書いた通り、ロシアは自国の木材加工業の育成のため、原木の輸出規制政策を強化する方針にあります。

ロシアから直接原木を輸入する立場にない国も、ロシアの原木を中国やスウェーデンなどで加工したものが世界中の建材・家具市場に流れている以上、世界的な木材価格へのインパクトははかり知れません。

加えて、ウクライナ侵攻の風聞がささやかれるなどで、ヨーロッパ最大の木材生産地帯である東欧に緊張が走っている始末。ロシア情勢は2022年も目が離せません。

ロシアの木材工場視察時

中国の木材需要増加

コロナ前から中国国内の木材需要の増加は懸念されており、林野庁の調べでは過去10年で木材需要2.5倍という急速な発展を遂げています。この背景には、中国内需の経済が活発化されてきたことで最終消費者用の材として木材需要が増え続けているということの他に、好調な中国経済を牽引する輸出加工用の原材料としての用途の二つが挙げられます。

いずれにせよ、中国における木材需要は過去10年右肩あがりだったわけですが、特に今回のコロナで中国の生産が先進国に先駆けていち早く回復すると、輸出加工用原材料としての木材需要が急激に増加することとなります。

政治的理由などからオーストラリア、ロシアからの木材輸入の難しくなった中国は、その他欧米、東南アジアの木材資源の調達に走っており、特にベトナム産ゴムの木などは大半が中国企業に買い占められ、国内需要がままならぬ状況までひっ迫しています。

まとめ

さて、最後にまとめに入りたいと思います。今回、日本の建築業界に深刻な打撃をもたらしたウッドショックの原因についてまとめましたが、その中にはロックダウンのように一過性のものもあれば、地球温暖化のように長引くものもあり、また貿易戦争のようにいつまで続くのか先の読めない問題もあります。

アメリカの経済学者、識者の見解でも、「木材価格は2023年には落ち着く」という意見から「これが木材本来の価格の在り方かもしれない」という意見まで分かれており、コロナが落ち着いた後も「木材はいつまでも安く安定的に手に入る」という楽観的な気分は捨て去ったほうが良いかもしれません。

いずれにせよ、今回のウッドショックは輸入木材頼りの日本の木材供給サプライチェーンの脆弱性を露呈させることとなったように思えます。今後も、輸入材と国産材の需要バランスをとりつつ、こうした難局にも立ち向かえる資源の供給体制を整えていければ良いのではないでしょうか。

参考文献:

PAGE TOP