アメリカ政府の利上げが日本の木材市場にもたらす負の影響とは!?BLOG DETAIL

コロナの発生以降、物流や原材料価格は迷走を続け世界経済は混乱が続いています。アメリカはコロナ期間中景気を下支えするためにゼロ金利政策を続けてきましたが、2022年に入り方向転換を決め、矢継ぎ早に金利の利上げを実施、イギリスや欧州銀行も積極的にインフレ抑制に取り組んでいます。

さて、最近メディアなどでも頻繁に取り上げられるこのアメリカ金利政策ですが、為替や株価への影響が多いこと以外に、実は我々木材産業への影響も大きいことはあまり知られていません。以前紹介したウッドショックに引き続き、我々木材業界を取り巻く環境を「アメリカの利上げ」という観点から紐解いていきたいと思います。

沈静化するアメリカ木材価格のカラクリ

コロナ発生、ロシアのウクライナの侵攻によって世界の木材価格は高騰し、家具、内装材メーカーからデベロッパー、ハウスメーカー、職人まで住宅市場に関わるあらゆる産業に深刻な影響を与えました。

さて、2021年の夏にはコロナ前の4~5倍の値(1700$/MFBF)をつけていたアメリカ市場での木材価格ですが、2022年の4月以降徐々に沈静化の兆しが見られ、2022年7月現在ではコロナ前よりもやや高い程度の600$/MFBF水準まで回復しました。

このニュースを切り取ると、世界的な木材価格の狂乱も一旦落ち着き、日本の木材市場にも平穏がもたらされるように思えますが、実際にはこの米木材価格の沈静化は「木材需要減」によってもたらされたもので、コロナ以降慢性的に世界市場が直面していた「木材供給不足」が解消されたわけではないことに注意が必要です。

アメリカの新築現場の9割で木材が使用される

なぜアメリカの木材需要が減ったのでしょうか?カギは冒頭で触れたアメリカの政策金利の利上げにあります。アメリカのインフレ率は今年5月に8.6%の上昇と、過去40年以来記録したことのない異常な数字に見舞われており、FRBはこれを鎮静化させるために3ヶ月で0.75%の金利利上げをおこない、加えて年末までに段階的に3.4%までの利上げを宣言しています。

政策金利が上がると、おのずと長期ローン金利の値上げに直結します。米30年ローンの金利は3月には3%台だった金利が6月以降急上昇し、2022年7月現在では6%近い水準に達しようとしています。おのずと、住宅や新車のような消費は冷え込み、実際にアメリカのローン申請件数も前年同月と比較して20%程度のマイナスを見せました(Market Insider)。

このように、アメリカの住宅購入者の動向が当面「買い渋り」に進むことを市場が受け、一時的に木材価格は「下がった」ように見えていますが、米識者の見解ではウッドショックの原因である世界的な木材不足の様相はあまり解消に至っていません。

  • 景気の過熱局面では政府はインフレ鎮静のための利上げを行う
  • 住宅長期ローン金利などに波及し、消費に歯止めがかかる
  • 住宅市場で見込まれていた木材消費が低減し、木材価格上昇にも歯止めがかかる

日本木材市場に波及するアメリカの金利政策

続いて、アメリカのこうした利上げ政策がもたらす日本の木材市場への影響を見てみましょう。日本と外国(この場合ではアメリカ)の金利差が開くと、おのずとアメリカドルでの資産の運用の人気が出ることとなり、円売りが加速、円の価値が下落して輸入の際の購買力が下がります。

政府の施策もあり2002年以降徐々に回復基調にある我が国の木材自給率もいまだに40%前後で、特に構造材のような大きな木材はまだまだ輸入材に頼らざるを得ない現状にある以上、円安によって国としての購買力が落ち込むと他国のインフレについていけず、おのずと我が国に供給される木材の総量は減ることとなります。

(林野庁平成29年木材需給表を元に作成)

その証拠に、アメリカの木材価格の過熱は落ち着きを取り戻している一方、経済産業省によると日本国内の木材価格はあくまで「ピークアウトした」程度で、コロナ以前の価格水準に戻る兆しはあまり見られません(例えば集成材の国内価格、2015年を100とすると、2021年は255、2022年は253)。

  • 外国が利上げし日本が利上げしないと、金利差によって円安が進む
  • 円安が進むと、円の持つ購買力が失われ、輸入がしづらくなる
  • 木材の6割を輸入材に依存する日本の木材市場にとって、円安は木材供給難に拍車をかける

ピンチはチャンス。円安は日本の良質な木材を海外に販売するチャンスです

加熱する為替ゲームと日本の木材市場の行方

さて、最後にまとめです。上述の通りアメリカ政府は年末までに段階的にさらなる金利を宣言しており、欧州中央銀行も量的緩和を停止し、7月以降利上げと金融引き締めに転じました。こうした動きから、識者の間では当面円安の流れは続くか、現状よりもさらに悪化するという見立てがされています。

木材の自給率などは一朝一夕に改善できるものではありませんので、円安で木材の輸入が難しくなると、国内に供給される木材の量も低減するか、あるいは価格高騰の煽りをうけるでしょう。

(この金利差による円安と購買力の低減のテーマをつきつめると、何故日本政府は量的緩和の引き締めをおこなわないのか、という話に論点がずれていってしまうため、今回はそこまで込み入った話はしないことにしますが・・)

はるか海を隔てたアメリカやヨーロッパの金融情勢ですが、このように紐解いてみると我々の木材ビジネスに深くかかわっていることが分かります。今後も政治や戦争の影響で混乱の予想される木材市場情勢ですが、皆様に素早く情報を共有してゆく所存です。

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