【2022】ロシアのウクライナ侵攻は木材にどのような影響をもたらすか?BLOG DETAIL

2022年2月24日に戦端の開かれたロシアによるウクライナ侵攻は、プーチンの短期決戦構想を裏切りすでに泥沼化の様相を呈しています。世界経済への大きな影響が示唆される当戦役ですが、木材市場への影響は果たしてどこまであるのでしょうか。サプライチェーンに深刻な影響の出始めているロシア、ベラルーシ、ウクライナの三か国の規制・物流障害に焦点を当てて解説を行っていきます。

ロシア・ベラルーシ事情

先に戦争を仕掛けたロシアの状況をおさらいしましょう。ロシア・ベラルーシは直接戦場にはなっていませんが、西側諸国の経済制裁の影響を食らい、海外との取引が大幅に制限されている状況です。後述の通り、SWIFT排除をはじめ、森林認証の停止や各国メーカーの木工機械の輸出停止が主な影響を被る部分です。

最も、ロシアのウクライナ侵攻以前からロシアは原木の輸出禁輸政策を打ち出していたため、実際に日本やアメリカの木材市場に現段階で大きな影響は及んでいません。詳細は「ロシアの丸太原木輸出規制が日本に与える影響」の記事を参照してください。

ロシアのSWIFT排除

まず、日本のメディアでも騒がれているSWIFT排除の経済制裁ですが、ロシア経済にとって大打撃の一打となっています。日本国内の取引と異なり、国境を越えた銀行取引の場合SWIFTと呼ばれる国際的な決済システムを使用する必要があるのですが、このシステムからロシアの銀行(ただしすべてではない)が排除されたため、事実上ロシアの企業は海外と取引をおこなえないこととなります。

つまり、ロシアの企業は海外に送金できない、かつロシアの企業は海外に物を売ってもお金を受け取れない、という半鎖国状態になってしまいました。上述の通り、ロシアはウクライナ侵攻に先立って原木禁輸政策を打ち出しており、すでに市場はそれを織り込み済みで動いていたため、木材市場への影響は当面限定的です。

FSCとPEFCがロシア・ベラルーシ木材の認証を停止

持続可能な木材資源の認証を謳うFSC・PEFC両認証機関は、この度のロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア・ベラルーシからの木材を「紛争木材」(要するに、木材の販売利益が両国の軍事産業に使用されてすまうことを防ぐため)とみなし、両国からの木材資源に対し認証を停止する発表を行いました。

※紛争木材に関しては「世界の違法伐採と木材マフィアについて」の記事を参照ください

この認証停止のあおりを最も大きく食らうのは欧州と日本のエネルギー産業と言われています。バイオマス燃料として木材チップを使用する場合、基本的にはFSC・PEFCどちらかの認証を必要とするため、市場に混乱を招くと予想されています(ロシアの原木と違い、製材された製品はロシアの禁輸対象外だったため、こちらは市場に影響が出ています)。

もう一つ、当認証停止によって深刻なダメージが予想されるのが包装材・パレット業界です。FEFPEB(ヨーロッパ包装材製造連盟)は、今回の戦争がコンテナの輸出などに使用されるパレット材の深刻な不足を招くことを予想しており、木材業界だけでなく世界の物流にコロナ禍に輪をかけた影響をもたらすと警鐘をならします。

物流業界を支えるパレットには木材がふんだんに使用される

各種木工メーカーが機材のロシア・ベラルーシへの納入を拒否

人道的な理由か、はたまたルーブル安やSWIFT排除によって売掛金が回収できないリスクが生じたからか、いずれにせよ各国の木工・林業機械のメーカーはロシア・ベラルーシへの機械の納入を拒否し始める事態となっており、両国の林業に深刻な影響を与えるとみられています。

大手三社のJohn Deere・Komatsu・ Ponsseはすでにお得意様であるロシア・ベラルーシへの機械納入ストップを決めています。これによって、海外への販売だけでなく木材の加工自体が行えなくなる企業が増えることになりそうです。

ウクライナ事情

ロシア軍によるウクライナ各方面の攻撃は激しさを増し、ウクライナ各都市は戦時下体制に入っています。平時下で営まれていたウクライナの経済活動が停止され、特にウクライナ木材に大きく依存しているポーランド、ドイツ、バルト三国などは大きな影響を受けることとなりました。

本戦争の着地点が誰にもつかめない以上、この戦争の影響がどこまで長引くのかもまた誰も予想できないものとなっています。すでにウクライナの製材・保管工場が破壊されたというニュースも入っており、これらは戦後平常運転に戻るまで時間を要することを意味しています。今後戦争が長引けば、さらに社会インフラや労働者、森林への被害も拡大し、戦争が終わったからと言って簡単にウクライナからの木材供給が復活されるとは言えない状況になっていきます。

  • ウクライナは中欧・北欧への重要な木材供給源。木材を直接加工する業界だけでなく紙、パルプ、バイオマスエネルギー、木材パレットを使用する物流業界など、などあらゆる業界への影響が予想されている
  • 戦時下ではウクライナの経済活動が停止され、木材の供給が滞る
  • 戦後も、インフラへの被害が広がればさらに平常運転に戻るまで時間を要する

まとめ

上述の通り、ロシア材が手に入りづらくなることはすでに前もって知らされていたため、本戦役の木材市場への影響は当初限定的でした。もっとも、戦争が泥沼化・長期化すると、ロシアだけでなく東欧のサプライチェーンやコンテナ、パレット、包装材、エネルギーなどあらゆる業界に影響が飛び火していくことが予想されます。

風が吹けば桶屋が儲かる状態で、もはや複雑に入り組んだ各産業の因子が将来的にどのような帰結をもたらすのか、想像するのは容易ではありません(例えば、ロシアの戦争開始に伴い一時的に原油価格が高騰しましたが、UAEが増産を示唆したため、価格は下落しました)、以下のようなことが間接的・長期的な影響として挙げられています。

  • 海上運賃・コンテナ代のさらなる上昇(パレット代や原油代の上昇により)
  • 空輸代の高騰(原油代の上昇、ロシア上空を避けるルートなど)
  • エネルギー価格の高騰とインフレ
  • 世界の木材需要供給バランスの崩壊(ロシア・ウクライナ・ベラルーシの3大木材供給国の木材供給ストップにより欧州メーカーが他国の木材を買いあさる)

海外の製材・木材に依存体質にある日本は、こうした通貨や輸送運賃の不安定な状況下ではやはり脆弱といって過言ではない影響を被ってしまいます。勿論、その場の経済・政治状況に応じて外国材を使うことは必要かとは思いますが、今後は国策として国産材の利用価値を見直す時期にきているのかもしれません。

プロセス井口では、国産材だけでなく、外国材の直輸入、さらには日本杉の海外への輸出なども請け負っており、有事の際にも対応できるあらゆる木材の供給体制を持っています。木材・製材に関してお悩みの際は是非ご相談を!

お問い合わせフォーム

参考文献
Packaging Europe
Forestry
FSC, PEFC suspend Russian, Belarus wood certification

PAGE TOP