輸入建材は今後日本で発展していくか?メリット・デメリットを解説BLOG DETAIL

工務店やホームセンターなどでも「輸入建材」の文言が最近目をひくようになってきました。スウェーデンのIKEA(家具)、ドイツのMIELE(キッチン・家電)など、日本メーカーのお家芸と言われていた暮らしに関わる部分にも徐々に欧米メーカーの影が忍び寄っており、建材に関しても日本の伝統的な「畳」は毎年国内需要量を落とし輸入建材と呼ばれる外国産の建材が台頭してきています。

今回の記事では、日本に定着しつつある輸入建材の定義とそのメリット・デメリットについて解説をおこないたいと思います。

そもそも輸入建材とは

画一化された用語がないため定義が難しいところではあり、輸入建材という用語自体が「輸入された建材」を分かりやすく表す言葉であるため、基本的には「一般消費者の目にとまる建材」のこと、すなわちガラスや瓦などの外装材や、フローリングや壁紙などの内装材を指す際に使用される用語で、一般消費者の目の届かない骨材やセメント等は省かれる傾向にあります。

(そもそも木材の輸出依存率6割超の日本にとって、輸入された部品が使用されていない建材を探すことのほうが困難であり、基本的には「海外で製造された完成品」を指すことが多い)

日本建築学会は2019年の調査レポートの中でそれぞれの建材の具体的な「輸入依存度」を報告しています。このレポート内で、輸入建材は「輸入率が10%に達したことがある」「輸入率が10%に達したことなし」「輸入率が1%に達したことなし」の3つのカテゴリに分類されており、それぞれ以下の建材が当てはめられます。

輸入率が10%に達したことがある建材・・合板、タイル、製材、造作用集成材、金属サッシ、板ガラス、鋼材
輸入率が10%に達したことのない建材・・住宅屋根用化粧スレート、複合フローリング、セメント、窯業系サイディング、洗面化粧台
輸入率が1%に達したことのない建材・・骨材、瓦、壁紙、浴室、石膏ボード、キッチン

うち、特に「タイル」「製材」「造作用集成材」は1970年以降輸入依存度が年々増加傾向にあり、2010年代後半では輸入材のシェアが40~50%に達しています。「合板」は2000年以降逆に輸入依存率が低下しましたが、この背景にはラワン合板から針葉樹材への移行がなされ、国策として国産の針葉樹の使用が進められてきたことがあります。

全体的に見れば、為替変動や国内外の情勢に引きずられることはあるものの、傾向として輸入建材の国内シェアは1970年以降基本的には増加傾向にあります。同日本建築学会はこの増加原因に対して「国内需要の変化(例えば、タイルでは日本で生産していない大型の規格が需要を増した)」と「工場の海外移転」を理由として挙げています。

日本の大手建材メーカーでも、大建やアイカ工業、WOODONEのように人件費の安い海外工場を開設する動きが2000年以降に出てきており、そうした海外工場で作られた日系企業の製品が国内に輸入された際も、一種の「輸入建材」と言えるでしょう。

一般的には「イタリア製タイル」「ドイツ製フローリング」「アメリカ製サッシ」のように欧米のお洒落でハイクオリティな響きでもって理解されることが多い輸入建材ですが、実際に日本に出回る輸入建材の大多数は「中国製合板」「ベトナム製タイル」といった、労働単価の安価なアジア諸国で作られた労働集約材です。

 

資本集約的な輸入建材 労働集約的な輸入建材
生産国 ヨーロッパ・北米 東南アジア・中国
価格 国産製品よりも高い 国産製品よりも安い
強み 日本にはないデザイン、日本にはない技術 価格
日本での流通量 少ない 多い
規格 本国の規格 日本にあわせた規格

輸入建材の未来について

当社プロセス井口も早い時期から海外メーカーとの直接交渉をおこない、いわゆる「輸入建材」を日本市場に紹介する輸入代理店としての顔も持っています。

ドイツから直輸入した建材が大川に到着!

そのため、国内外の建材の良い面、悪い面を知ることに関しては一家言あると自負しておりますが、その立場からいうと輸入建材は「日本にないものは取り入れるべきだが、ほどほどにすべき」だと思っています。

以下に、輸入建材の持つ明るい部分と暗い部分について、解説を行いたいと思います。

輸入建材のポテンシャル

まず、輸入建材の持つ明るい部分、ポテンシャルについて目を向けてみましょう。

冒頭で紹介した日本建築学会のいう「国内需要の変化」が、今後日本の輸入建材の未来を占うにあたり重要なポイントになってくるでしょう。

最たる例では、日本の住宅市場の「新築型」から「リノベ型」への需要変化です。野村総研によると、1990年には年間新築着工件数167万戸を誇っていた日本の住宅市場は、バブル崩壊後徐々に縮小していき、日本が社会構造的に避けられない人口減も相まって、2030年には全盛期の3分の1である63~68万戸にまで落ち込むと言われています。

一方で、リノベ市場は1992年以降30年近くずっと7兆円前後で横ばいを続けており、向こう10年この数値で推移するだろうと言われています。

現在、日本で使用される建材の使用内訳はざっくりと「新築向け7割」「リノベ向け3割」と言われていますが、このまま新築需要が低下し、リノベ需要が横ばいのまま推移すると、じきにこの割合が拮抗する未来もくるのではないでしょうか。

すでにその兆しは出てきており、2020~2021年でDIY建材を販売するホームセンターの売り上げは軒並み好調となり、日本でも欧米の例に習って自分でリノベを楽しむ層が増えました。売上比ではコロナ前に比べ増収10パーセントに達し、今後もプチリフォーム・DIY需要は続くと言われています。

一方で、日本の建材メーカーはまだ家主が同じ家に生涯住むことを前提とした新築市場向けの「新築型」「職人型」を販売の軸としており、欧米系メーカーが得意とする「リノベ型」「DIY型」建材の製造を苦手とします。こうした人口動向の変化に対応するため、海外メーカーが得意とするリノベ建材が増えていくのではないでしょうか。

ロシアやドイツの輸入建材が当社倉庫に保管されています

輸入建材のリスク

それでは、輸入建材の未来は必ずしも明るいのでしょうか?個人的な意見では、日本で輸入建材が今後もどんどん拡大していくような楽観的な未来は訪れないと思っています。

まず、日本特有の規制・規格の壁が輸入建材の日本におけるこれ以上の流通を阻んでることが障壁に挙げられるでしょう。

世界は自由貿易の流れに向かっており、日欧EPAの締結やTPPなどはその最たる例です。にも拘わらず、日本の非関税障壁と呼ばれる、いわゆる「関税面以外での」規制や規格は、輸入建材の日本での流通を困難にする側面を持ちます。

例えば、日本の独特のホルムアルデヒド規格であるF4Starは、欧米で大きなマーケットシェアを誇る安価で耐久性に優れた「ラミネート床材」の国内での流通の天敵となっています。

その他にも、壁材分野における「不燃認定」や、床材分野における「L45防音認定」など、日本にしかない認証を欧米のメーカーはわざわざ高い金を時間をかけて取得することを避け、結果として日本への輸入建材流通の妨げとなっています。

このことは、日本の建材メーカーの国内シェアを海外メーカーの攻勢から守る一方で、自由貿易の荒波にさらさないことから結果的に国際競争力をそぎ、日本製品のガラパゴスに繋がっていくと危険視する声もあります。

また、前回の記事「ロシア原木輸出規制」で紹介した通り、木材や一部原材料の輸入を外国に依存する日本にあっては、こうした輸入建材に頼りすぎると国際的な為替変動や政治的問題の際に深刻な供給不足に陥ります。行き過ぎた輸入建材への依存はこうした有事の危機を招くため、あくまで輸入建材の使用は「健康な」依存度である10%前後を保っておくことが望ましいでしょう。

ドイツの土足対応の床材、日本の地震に対応した構造材、北欧の寒い冬を想定した厚い窓など、各国の建材はその国の文化や歴史を反映しており、簡単にコピー&ペーストして成功するものではありません。良いものは取り入れるが、決して依存しすぎない、和魂洋才の精神を保ちつつ、輸入建材と健全な関係を築いていくことが、この国の建材の未来を明るくするのではないでしょうか。

博多オフィスへのドイツ床材の施工実例

参考文献

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