森林破壊の起源は奈良時代!?森林伐採の歴史と木材資源争奪戦BLOG DETAIL

地球の表面面積のうち、森林の占める割合はわずか「8%」と言われています。OECD加盟国の中ではフィンランド、スウェーデンに次いで高い森林率(国土のうちの森林の面積率)を持つ日本にいると、森林のありがたみが分かりづらいですが、近世以降、経済活動の活性化にともない世界の森林面積は顕著な右肩下がりとなっており、今後も世界各国の「木材資源争奪戦」の過熱が予想されています。

2019年コロナ発生・ウクライナ戦争以降露呈した日本の木材をめぐる供給体制の脆弱さですが、今後我々を取り巻く木材の流れはどのようになっていくのでしょうか。今回は「森林伐採」をテーマにお伝えしようと思います。

森林伐採の歴史

上述の通り、産業革命以降エネルギーの消費量が爆発的に増加した先進国諸国では、急速に木材需要の増加と森林破壊が過熱しました。木材はすでに「安価で調達容易な資源」ではなく、エネルギー需要が急速に発展する各国同士の熾烈な奪い合いが予想される資源と化したわけです。

最も、産業革命以前にもこの「木材不足」「森林伐採」の問題は人類について回っていた点に注意しなくてはいけません。例えばモアイ像で知られるイースター島の文明は人口増加と森林破壊によって消滅してしまったと伝えられ(※ただし、最近の研究では諸説あり)、古代メソポタミアやギリシャ等、家屋の建築や戦争のための造船等によって無計画に森林伐採・森林破壊がなされる事例は産業革命以前からたびたびありました。

自然との調和を伝統とする日本の文化においても、実は森林伐採は有史以来日本の政治・経済に密接に関わってきた問題です。水田の開発、寺社の設立などで森林面積が縮小し、人々の生活に影響を与えるようになってくると、676年には天武天皇の治世において日本で初めての森林伐採禁止令と言われる「機内の森林伐採禁止の勅令」が出されるようになりました。(出典:丸山岩三「奈良時代の奈良盆地とその周辺諸国の森林状態の変化」)

最も、この事情は時代とともに人口が増え、戦争で城や城郭の普請、兵器や造船の需要が高まるにつれ深刻化し、無計画な伐採によって森林は荒廃を繰り返しました。

特に、日本の人口が3倍に増加した江戸時代、各藩は深刻な木材不足に陥っています。人口集中の進んだ江戸や大坂での頻繁な大火事は、付近の森林資源需要の増加に拍車をかけ、木材価格は高騰を繰り返し、付近の伐採可能な山は荒廃しました。このことは、土砂災害や洪水などの自然災害にも結び付くなど、現代社会の抱える森林破壊の構図と瓜二つです。

当時の火事は、現代の戦争・災害クラスで死者と避難民を発生させており、例えば江戸末期に発生した文政の大火では焼失家屋は「37万戸」、死者は「2700人」に及んだと言われています。ちなみに、現代の工法で、一軒家を建てるにあたり24立法メートル(杉70本分)程度の木材が必要なことを考えると(出典:農林水産省)、37万戸を再建するには2500万本相当の木材が必要になり、この数は毎年植樹される日本の人工林の数を上回ります。

このように、文明の発達とともに木材需要は増加し、森林は戦前にも度々「伐採超過」と「はげ山化」の憂き目にあっていたわけです。要するに、森林伐採は近代化が単に招いたのではなく、そもそも有史以前人間の生存活動と不可分の問題でした。

加熱する世界各国の木材資源争奪戦

現代の森林破壊・伐採の話題に戻りましょう。驚くことに、世界の森林面積は減少している一方で、国や地域によってはむしろ森林面積が増加しているケースも多くみられています。森林破壊の定義とは本来「森林が回復する能力を超えて森林を伐採する」ことで、計画的な植樹計画に基づく森林伐採と経済活動はむしろ好循環をもたらします。

例えば、人口増加と大気汚染、度々目にする劣悪な環境問題などのニュースで悪いイメージのついている中国ですが、こと森林保護をめぐる環境問題に関しては優等生で、世界では一位の「森林面積増加国」となっています(2位オーストラリア、3位インド)。地域別にみると、いち早く「持続可能な社会」実現の取り組みに動き始めた先進国諸国では森林面積の回復が見られ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアでは1990年代に比べ森林面積が増加しています。

他方、アフリカと南アメリカの森林破壊は深刻です。両地域とも、1990年代との比較で10%以上の森林面積を喪失しており、中でも世界有数の森林面積保有国であるブラジルやインドネシアでの森林破壊は地球温暖化の遠因となっています。

最も、この事象をもって中国の森林保護対策を楽観的に、ブラジルの森林保護を悲観的に、二極対立で見ることは早計でしょう。中国の森林面積は増加傾向にあるとはいえ、人口10億人以上を抱える巨大国家としてその「人口一人当たりの森林面積」は世界の国々でも下から数えたほうから早い方です(2019年統計で中国は138位。ブラジルは34位。日本は22位。)。

中国政府の推し進める緑化計画は、木材加工向け森林資源の助成というよりも、洪水・公害対策の側面を強く持ち、実際に建材・エネルギーとして使用できる面積は微弱、実際に世界の木材流通量に対する中国の占める割合は年々増加し続け、2018年には実に「43%」(林野庁)に達しています。いかに森林面積が微増したとはとはいえ、国内の木材需要を賄えるわけではなく、中国は依然として世界の木材貿易の最大の輸入プレイヤーなのです。

世界の森林面積が増えた、増えない、というのは世界の木材価格を推し量る指標としては根拠として乏しく、数字に惑わされることなく、実際に商用使用できる森林をもって木材市場を眺めなくてはいけません。森林面積の増減よりも、森林をいかに効率よくビジネスに用いられるか、という枠組みをわが国が持てるかどうかが、今後木材資源争奪戦に勝ち抜くため、はては持続可能な環境を守るためのロジックだと言えるでしょう。

冒頭でふれた通り、日本の森林面積率は先進国3位であるものの、森林利用率はOECD諸国でほぼ最下位の「0.1%」という有様です。戦後、価格面で有利な外材に頼って木材自給率を下げ、林業に関わる産業基幹をないがしろにしてきたつけが今回ってきたというわけです。

ロシアは2022年以降、丸太原木の海外輸出を原則禁止する方向性を打ち立てました。ロシアの狙いは明確で、海外に流出しつづけていた製材分野の木材ビジネスを国内回帰させる方針です。国土が豊かな森林に囲まれたわが国も、資源としての木材の使用を活性化させ、伐採した分に関しては正しい植樹計画をおこなう、という好循環を生み出さないと、今回のウッドショックのように有事の際に右往左往し、いずれ国の経済が「はげ山化」してしまうかもしれません。

プロセス井口では「木材資源」を近代的な暮らしに同化させるべく、国産材の様々なインテリア・家具・内装への有効利用をおこなっています(輸入木材も取り扱っております)。

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