EXPO 2025 大阪・関西万博 UAEパビリオン向け木材輸入物語2BLOG DETAIL
第三章:
迫りくる巨大サイクロン・・現地の飛行機やバスは次々と欠航となりますが、そんな中我々は現地視察を敢行します。ムンバイ空港を発ち、ガタガタ揺れる旧式のプロペラ機に揺られること2時間、パキスタン国境近い港町カンドラの地に降り立ちました。
空港から更に荒地を自動車で1時間、ようやくお目当てのナツメヤシ農園に到着したころには風が吹き荒れ、我々の近くをほこりや木くずが舞っている状況です。
サイクロン到着まで一刻の猶予もありませんが、検品をなおざりにするわけではありません。木材加工業者として30年、現地主義を貫き通したプロセス井口の全身全霊でもって、様々な角度からナツメヤシの検品・交渉をおこないます。
そもそも何の目的でナツメヤシを用いるのか、色がついているものや曲がっているものが許容できない理由、こうした背景を説明する必要があります。「これはOK」「これはダメ」、と一本一本見本となるナツメヤシを手にとって説明することで、現地の方も「我々の基準」を理解してくれて、少しづつゴールに近づいていくのです。
現場で手を動かす人に、生で交渉して初めて伝わることがあります。恐らく、我々がオンラインでミーティングを済ませてしまっていたらこうした木材の絶妙な機微は伝えられなかったでしょう。
「これだ!このナツメヤシだ!」
危険を冒してはるばる農園を訪れた甲斐もあり、我々は地元の方たちとの合意に至りました。思わず声が出るほど良いナツメヤシ。我々はナツメヤシ輸入に踏み切ります。
本来貿易業務では、検品前にインコタームズや支払い方法(前払いなのか、後払いなのか、保証金必要なのか、等々)を厳格に詰める作業もあるわけですが、我々は現地主義。サイクロンの危険を冒してまで我々を出迎えてくれた現地のエージェントを信頼します。
「コンテナ1つ分、購入します!」と交渉成立
迫るサイクロンを後ろ手に、こうして我々は農村を去りました。結局、サイクロンの到来でカンドラ空港が閉鎖されたため、我々は運行可能な最寄りのアフマダーバード空港まで迂回し、結局陸路で3時間の移動に・・
後から知った話ですが、我々が村を離れた30分後にサイクロンがカンドラを直撃したようで、何百人の死者が出たとのことでした。原料の調達に様々な国を訪れたことのあるプロセス井口ですが、ここまで間近に死を感じたことは初めてです。万博開幕まで残り1年10ヶ月・・
第四章:
木材の輸入方法には、航空便を用いたエアーと、船便を用いたコンテナ便の2種類があります。
通常、木材輸送には安価で大量輸送が可能な船便が用いられますが、なにせ時間がかかります。対して航空便の場合、船便よりも早く材を受け取ることができますが、その分輸送コストが嵩みます。
今回差し迫った品質チェックのため、我々は慎重を期して「半分船便」「半分航空便」で日本に仕入れることにしました。
時期は夏。蒸し暑い福岡県大川の事務所で、我々はナツメヤシ到着の報告を今か今かと待ちます。
材が空港に到着すると、通関作業が行われ、ようやく我々の手元に材が運ばれてきます。インドを出荷してから約1か月、ようやく材が日本に届きますが、その中身をあけた瞬間、恐ろしい光景が目に飛び込んできました。
現地で検品した際は完璧だったナツメヤシの表面を、びっしりと覆いつくすようカビ!いたるところにカビ! 材としては勿論、これでは品質チェックのための試験に出すことすらままなりません。
ここで頼みの綱のインドからのナツメヤシが使えないとなると、試験が行えずに本プロジェクトが頓挫します。今から国内の使用可能なナツメヤシをかき集めるか?フィリピンや中国等、近場の国から赤字覚悟で再輸入するか?・・様々なアイデアが議論されますが、いずれにせよ時間が足りません。
悩みに悩んだ挙句、木材加工業者として我々が出した答えは「カビをそぎ落とす」でした。
当然このクオリティの材を用いて施工や内装を行うことはありませんが、今回のケースでは使用目的はあくまで「材の強度チェック」なわけで、見てくれはともかく、物理的な強度さえ確認できれば問題はありません。
見たことのないような膨大な量のナツメヤシを前に、社員総出で「カビ取り」作業が行われることとなります。
※我々は通常木材輸入の際にカビには細心の注意を払っています。木材は一般的に、湿度調整された工場で人工乾燥されたもの、あるいは長い年月をかけて自然乾燥されたものの二つがありますが、いずれの場合にも含有される水分量のチェックと、綿密な梱包をおこなっての出荷となります。
今回のケースでイレギュラーだったのが、そもそも農村が出荷を前提としたメーカーではないこと、ナツメヤシの伐採地であるインドの湿度が高く、乾燥が不十分であったこと、雨季に重なってしまいコンテナ内の水分が過剰だったこと、工場で梱包機械を用いての出荷ではなくあくまで手作業での出荷だったこと、そもそも納期が近すぎて対策が十分に打てなかったこと、などの要因が挙げられます。
いずれにせよ、現実問題我々はお盆の間カビを取り除くことに奔走することとなりました。世間様が迎え火をくべて先祖をお招きする中、我々はカビ付のナツメヤシを工場の焼却炉にくべてゴウゴウと燃え盛る様子を眺めていたわけです。万博開幕まで残り1年8ヶ月・・
続く・・