中小規模のホテルの内装を早変わりさせるインテリア術BLOG DETAIL
思い立って週末のホテルステイでリフレッシュ、ホテル併設のレストランでランチ、グループでの季節限定アフタヌーンティーコース、あるいは夜のバーで食事など、いまやホテルは宿泊機能のみならず、普段使いからちょっと特別なお出かけの場へとその機能を広げています。
ホテルに泊まって休日を過ごすステイケーションも注目を集めていますが、在宅でのワークスタイルが広がって自宅以外の場所でリフレッシュする必要性が高まる昨今、ホテルはその選択肢の中でも筆頭と言えるのではないでしょうか。
今回は、利用シーンの広がりに加え、今後ますます拡大すると見込まれる観光業とホテルマーケットに対応すべく、実際に改良可能なホテルの内装デザインについて、その素材とアイデアをご紹介します。
変わりゆく観光業と今後の展望
国内での旅行消費はコロナ前の水準に戻り(参考:観光経済新聞 国内旅行23年消費額、コロナ前の水準回復 |)、政府が掲げる2030年度訪日外客数6000万人、地方部での外国人延べ宿泊者数1億3000万人泊という目標(参考:観光庁「明日の日本を支える観光ビジョン」概要)に向けて、日本ひいてはアジア全体での観光需要は今後さらに大きく膨らむ気配を見せています。
つまり、国内需要を取り込むだけでなく、増加するインバウンド需要にいかにアピールしていくかがこれからのホテル運営では重要な鍵になると言えるでしょう。
インバウンド需要といっても、宿泊、買いもの、航空・鉄道などの移動、小売、飲食などさまざまな分野での購買行動の活性化、日本経済への貢献が期待されていますが、観光庁の訪日外国人消費動向調査2023年度速報(概要)によると、インバウンド客が何に最もお金を使っているかというと、それは宿泊費なのです。
さらにこの調査では、2019年度調査時に比べて「買いもの」の消費構成比が減り、「宿泊」の構成比が10%近く増していることが示されています。一人当たり旅行支出額を見ると、特にイギリス、ドイツ、イタリアやフランスからの訪日客は15万〜13万円/人と宿泊に高い費用を掛けています。
こうした傾向から、インバウンド需要を効率よく取り込むためには、ヨーロッパからのインバウンド客の取り込みを見据えた宿泊環境を整えることが重要といえるでしょう。
お手軽なホテルリノベーション
シティホテル、リゾートホテル、ラグジュアリーホテルなど、ホテルタイプごとに価格帯や主に利用されるシーンは様々ですが、ここ数年注目を集めているのが「ブティック・ライフスタイルホテル」というもの。独創的なコンセプトとデザイン性の高い空間に、カフェや音楽ラウンジといった機能を備え、冒頭で述べたような宿泊以外での楽しみ方を提供しているのが特徴です。
客室は10〜100室程度とコンパクトながら、インテリアやエクステリアにもこだわり、訪れる人に合わせてパーソナライズされたサービスを提供する「ブティック・ライフスタイルホテル」は、もともと海外から広まったスタイルで、居室のデザイン性を高め、いかに居心地よく過ごしてもらうかに焦点をあてています。とはいえ、常にきめ細やかなカスタマーサービスを提供するための人材を確保するのも一苦労。その点、もう一つの特徴であるデザイン面からのアプローチであれば、利用客全方位に対してその効果を発揮できます。
ホテルの居室や共用部分において特に広い面積を占めているのが、①カーテン、②壁紙、③床材です。入室した瞬間に目に留まる、大きく視覚を刺激するものからリノベーションを行うことで、早い効果を期待できるでしょう。
カーテン
ここ数年のトレンドとして挙げられるのが、デザインシアーカーテン。インパクトのあるグラフィックや大柄モチーフ+透け感(シアー)のある素材という組み合わせです。
たとえば、波を連想させるモチーフ+ブルーのカラーグラデーション、山並みようなグラフィック+モノトーンカラーなどで、シンプルでありながらどこかモダンな表情を作り出すことが可能です。程よく透過性のあるシアーカーテンは、自然光を取り込み、居室の印象全体を明るく軽やかにします。
そのほか、高級感を漂わせる細やかな刺繍が施されたカーテンでも、シアー素材であればうるさくならずに居室に馴染みます。丁寧な針仕事を連想させる刺繍の模様は日本の職人仕事を見せるのにうってつけで、インバウンド客にも好印象ではないでしょうか。
壁紙
次は、四方全体でなくどこか一面のみの変更でも部屋の印象を大きく変えるアイテム、壁紙。変色や剥がれなど通常使用でも経年の劣化が見えやすいものでもあるため、可能であれば定期的にメンテナンスしたいものです。
例えばPANTONE社が選んだ2024年のトレンドカラー「ピーチファズ」(ピンクとオレンジの中間のような桃色)や、WGSNがColour of the year 2024に選んだ「アプリコットクラッシュ」(光沢のあるイエローオレンジ)は、いずれも甘すぎずエレガントでありながら、温かみと快活さを連想させるカラーです。部屋の印象を大きく左右する壁紙は、宿泊者を迎え入れる空間にふさわしく、かつ空間をいきいきと輝かせてくれる色で取り入れるのがおすすめです。
床材
最後は、最も大きくホテルの印象を変える床材です。
レセプションやロビーはホテルの顔。エントランスをくぐってレセプションに向かうまでの空間でホテルの印象を特徴づけるといっても過言ではなく、四方を区切られた居室のカーテン・壁紙と比較して、広がりのあるエントランスロビーではその大きな部分を占めるのが床材です。床材を変えるだけで、ぐっと洗練された印象を与えるホテルへと生まれ変わらせることも可能なのです。
例えば、ビンテージスタイルを取り入れた住居などで人気のある木目調フロアタイルは、温かさや親しみがある一方、優雅さを醸し出すホテルライクなトーンとは少し異なります。ホテルの立地や取り込みたい客層によりますが、普段の住まいとは異なる非日常感をホテルに求める層にアプローチするには、光沢があり独特の風合いのある大理石・御影石などのセラミックタイルは好適でしょう。しかし、石床材は高価なのが難点。素材に加え施工費用もそれ相応のコストとなり、なかなか手が出ないかもしれません。
その点、施工コストを抑えるなら既存のフロアに重ね張りが可能なSPCフロアやオレフィン系床材がおすすめです。特に、PVC樹脂に石灰石を混ぜ込んで作られたSPCフロアは、セラミックタイルのような耐熱安定性、耐久性を追求した素材で、かつデザインバリエーションも豊富とあって現在では欧米を中心に人気を博しています。