違法木材取引を防げ!「木材探偵」とは!?BLOG DETAIL
インターポールの調べによると、犯罪組織の大きな収入源になっている産業の1位は麻薬、2位はコピー品、そして3位には「違法木材取引」がランクインします。
世界規模で1500億ドル(約20兆円)という途方もない売り上げを誇り、違法木材の売買が犯罪組織の収入源と化している状況を打破するため、ヨーロッパには「木材探偵(Timber Detective)」という面白い職業が存在します。今回の記事では、彼らの仕事内容について詳しく解説をおこなっていきます。
違法木材取引の実態
「世界の違法伐採と木材マフィアについて」の記事でも取り上げた通り、持続可能な社会を目指す法規制の裏側では木材を違法に伐採し利益を得ようとする輩が存在しており、そうした人々を総称して「木材マフィア」と呼びます。
「木材マフィア」という名がついているからと言って必ずしも元締めがマフィアであるとは限りませんが、発展途上国(東欧やアフリカ、東南アジア等)の盗伐ビジネスは往々にして暴力団や武装集団、テロ組織の収入源となることが多く、暴力に訴えること、取材を試みたジャーナリストを殺害するなどの強硬手段に出ることも少なくありません。
世界で流通する木材の20~25%程度、欧州であれば流通木材の16~19%が違法木材であるとされており、特に政府の目の届きにくい東南アジアなどでは50~90%が違法に伐採されたものであるというデータも存在します。
こうした違法伐採を排除するため、各国に施策がなされており、世界的な枠組みでは「ワシントン条約」によって基づいて作成されたCITESリストが挙げられます。CITESでは附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分類がなされており、いずれかに該当する木材樹種は貿易上の制限を受けることとなります。2024年現在、代表的なところではローズウッドやモンキーパズルが該当します。
そのほか、国や地域共同体などによって独自の法規制(EUTR:欧州連合木材規制法、等)が定められています。EUは持続可能な社会に向けて違法木材撲滅をうたっていて、欧州以外の国で違法に伐採された木材の輸入を禁止する、輸入側のデューデリジェンスを求めるなど、厳格な規制で知られています(同様に、アメリカ、オーストラリア、韓国なども違法木材輸入への罰則強化で知られる)。
もっとも、こうした規制は輸入側のリテラシーが備わって初めて成立するため、こうした枠組みの整っていないその他の地域などでは効力が弱く、実際に世界の木材市場で「違法伐採」が野放しにされてしまっている状態です。
木材探偵の仕事
さて、ここまでの流れを踏まえ、「木材探偵」なるものがどのような仕事をしているのか何となくお気づきになるかもしれません。EUに違法に輸入された木材を追跡する職務を担っており、時に木のおもちゃを探り回し、時に家具屋に調べにいき、あらゆる角度から違法木材を断罪します。
彼らの依頼人の多くは「欧州の貿易業者」で、要するに自分の輸入している木材や原料が違法木材でない合法であるという証拠を得て、EUTR(欧州連合木材規制法)不遵守のリスクを回避したいというものです。
CITESのリストに載せられた木材は勿論のこと、「原産地の偽装」「違法木材を塗装で誤魔化しているもの」「書類偽造によって税関をすり抜けたもの」など、加工品、原木を問わず木材製品をあらゆる角度から調べる必要があります。
木材探偵として働く者の中には、顕微鏡や虫眼鏡で樹種を特定できる元大工のような職人から、名門大学の森林学の博士、貿易や経済のエキスパートなどが含まれており、彼らの専門を組み合わせて特定をおこないます。
技術の発展はこうした木材特定作業の精度をより正確なものにしており、機械分析などAI技術を駆使した樹種の特定、ブロックチェーンを活かした原産地の非改竄性などが使われ始めるようになってきました。
最も、違法木材の取引をする側もいたちごっこで知恵を付けており、より精度の高い偽造書類や、地元政府との癒着による税関回避など、あの手この手を使っての取引がおこなわれています。
日本の木材輸入規制
ちなみに、2024年現在、日本における木材輸入規制は「植物検疫法」「ワシントン条約」「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の3種であり、現地で違法に伐採されたものかどうかの判断基準までは設けられておらず、日本で流通する木材で合法性が認められたものはわずか40%だったという報告もなされています(参考:読売新聞)。
もっとも、こうした世界基準での違法伐採撲滅運動の流れに乗り、日本でもクリーンウッド法が用いられていますが、現行の法律では罰則がないため、なんの意味もなさないのでは問業界の声があがっています。
違法木材の撲滅は勿論、EUや北米でスタンダードになりつつ違法木材の撲滅の流れから日本が取り残されてしまうと、日本の木材、木材品が市場がガラパゴス化してしまうリスクを孕みます。クリーンウッド法の改正と罰則規定が2025年を目途にすすめられているようですが、果たしてどのような動きになるのでしょうか。