ドイツの木材産業の構造【なぜ家具製造が強い?】BLOG DETAIL

人類史の始まりから用いられている材料ながら、21世紀の現代でも未だに主要産業の一つとして数えられる「木材」産業。林業、製材、輸送と、複雑な産業構造を描く木材経済は国によっても異なります。

今回は、世界の国の中でも巨大規模を誇るドイツの木材産業について解説をおこないます。

ドイツの木材産業の概要

工業製品のイメージの強いドイツですが、実はその黒い森などから調達できる潤沢な木材資源を活かし、木材加工品の製造・販売にも強みを持ちます。

2020年の統計資料によるとドイツの木材産業における総売上高は423億ユーロ(約7兆円)となり、世界有数の木材消費国の一つに数えられています。木材の使用用途は「家具」が最も多く全体の40%程度を占め、その他「建築資材」「製材」「木工品」などがある程度のボリュームを占める形となっています(参照:bmwk)。

ドイツの木材産業を支えるのは、個々の得意分野ごとに細分化された中小企業であり、伐採→製材→加工→販売といった何層もの木材サプライチェーンによって産業が成り立っています。

家具系のメーカー

中国、アメリカに次いで世界第三位の「家具輸出国」であるドイツの家具産業は、ドイツの木材産業にとっても生命線の様相を呈しています。雇用規模は約10万人、ドイツ全土に約1000社が展開されており、年間生産高は180億ユーロ(約3兆円)という一大産業の景気の良し悪しは、ドイツの木材産業にも大きな影響を及ぼします。

ドイツの家具メーカーの生存戦略はその技術力に裏打ちされた「高品質路線」であることがポイントです。グローバリゼーションの流れにのって、中国や東南アジア、ひいてはポーランドやリトアニアといった東欧諸国の安価な家具が市場に溢れかえっており、そことの差別化のためにはもはや、大量生産方式には手の出せないハイクラス市場で勝負をするしか生き残る道が無いのです。

(C)Flicker

それを実現するためには、木材の特性を熟知した森林学の専門家、それを実現することの可能な熟練の作業員、安定して木材供給が可能な購買ルート、そして世界各国を飛び回り直接顧客に販売することが可能な優秀な語学堪能な営業社員、というスキームが社内に構築されていることが多いと言えます。

ドイツの家具メーカーの特徴として、IKEAのように社内で全ての完結する大企業タイプの経営ではなく、一点特化型の従業員300~1000人程度の家族経営型の中小企業が多い点が挙げられます。基本的には製材として購入された木材(多くの場合東欧から)を社内で加工し、販売する手法がとられており、製材や物流機能といった自社の核とならない領域の作業はアウトソースされ、自社の核となる「製造」「品質管理」「開発」「デザイン」などに人的リソースが注がれています。

代表的なドイツの家具メーカー:

  • Rolf Benz
  • Möbelwerke
  • COR Sitzmöbel
  • Frommholz Polstermöbel
  • Hülsta

建材系の会社

建材メーカーはドイツ全体で15000人の雇用を創出、約80社が各地に点在しています。木材に携わる業界の中では、一社当たりの従業員数が多いことが特徴で、製材を中間加工し、最終材としてドイツ国内や各国に輸出する形となっています。具体的には、床材(特に木質系のものを指す)、壁材、屋根材、構造材などがここに該当します。

建材系のメーカーの場合、デザイン性もさることながら、土足や耐水、耐熱に優れた構造であるいわゆる「高機能」であることが必要とされるため、本来であれば水や火に弱い木材の耐久性をいかに高められるかという点に技術力が活かされることが多いと言えます。そのため、多くの場合で独自の製造ユニットを持ち、特に化学や塗装分野での知見を社内に蓄えている必要があります。

Parador製の3層フローリングを用いた施工例(プロセス井口)

また、新製品開発のため社内の研究費に大きな資金を投じる傾向があるため、商社などを通じた代理販売を嫌い、海外顧客にも直接輸出し大きなマージンを稼ぐことを好みます。そのため、小規模な会社内であっても海外市場に特化した部署が設けられており、個々の国に対応できる財務体制、ロジスティック体制が整えられています。

代表的なドイツの建材メーカー:

  • Parador GmbH
  • Haro
  • MeisterWerke Schulte GmbH
  • Layher Holding GmbH & Co. KG
  • Bembé

製材系の会社(Sägewerk)

こうしたドイツの家具や建材のメーカーを下支えしているのが、ドイツ各地に約320事業所あるという製材会社です。従業員1500人規模のRettenmeierや、チューリンゲンに本社を持つPollmeier Massivholz GmbH & Co. KGのような従業員300人規模の製材所もありますが、全体的には個々の地域に特化した少数精鋭の製材所が目立ちます。

一般的に、ドイツの木材市場における原木の多くは製材所に送られて加工されることとなり、加工された製材が工務店や家具職人の元に届けられます。オークなど広葉樹系の需要のイメージの強いドイツですが、実際には加工される製材の8割以上は針葉樹材と言われています。

ドイツの製材所の様子(C)Flicker

製材会社の仕事は木材の運搬、そして運ばれてきた木材の選別からスタートすることが多く、中には木材の乾燥工程も含まれます。ドイツでの環境保護の時流にのり、最近では工場のおがくずなどをリサイクルできる工程を整えているところが増えています。

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