カナダとアメリカの仁義なき木材貿易戦争BLOG DETAIL

国と国の紛争の形は必ずしも武力闘争だけではありません。時代によっては、経済的な戦いといった形をとることもあり、兵器による紛争よりも長期戦になることも少なくありません。

カナダとアメリカ・・世界を代表する経済大国の2国の間では、過去30年間にわたり木材資源をめぐる「貿易紛争」が繰り広げられています。世界の木材価格にも影響を与えるこの二国間の紛争に関して、詳しく解説をおこなっていきます。

なぜ貿易紛争は起きるのか?

時には武力行使を伴った本当の「戦争」にまで発展する危険性を帯びた貿易紛争。その歴史は古く、例えばイギリスとオランダの激しい戦闘に発展した第一次英蘭戦争(1652年)なども、元を辿ると貿易利権をめぐる戦いだったと言えます。

貿易紛争の中心には、自由貿易と保護貿易という相反する経済政策上のイデオロギーが存在しています。

自由貿易・・物品を関税やその他の制限なしに自由に輸出入することを目的とした経済政策
保護貿易・・関税や輸出量制限などを設けて貿易量をコントロールしようとする経済政策

この二つの立場のどちらが国にとって理想的かというのは経済学上の長年の課題でもあり、未だに決着がついていません。片方が自由貿易を主張し、片方が保護貿易を主張する場合、そこに紛争の火種が勃発することがあるのです。

自由貿易は自国の製品を輸出しやすくするため、成長産業にとっては魅力的ですが、代わりに他国の得意とする製品が自国にたくさん輸入されることになるので、一部産業の衰退や失業者の増加に繋がります。

保護貿易は自国の産業を守り、雇用を安定させることに繋がりますが、長期的な目線では国際競争力を低下させることとなります。

戦前は長らく自国の権益を守る保護貿易が全盛でしたが、次第に世界経済は自由貿易にかじ取りされ、100%とは言わないまでも、EUのような地域共同体や、FTA、EPAを用いた関税撤廃の動きに傾きつつあります。

今回のテーマである「カナダとアメリカの貿易紛争」では、アメリカ市場への木材輸出を推進したいカナダ陣営と、自国の木材産業を守りたいアメリカの保護貿易陣営が火花を散らしており、それぞれに論拠となる主張があるところがまた面白いと言えるでしょう。

カナダとアメリカ・・終わらない貿易紛争の発端

カナダとアメリカが何故そんなに木材に固執しているかという問いに答えるには、それぞれの国の木材産業構造に目を向けると良いかも知れません。人口3000万人のカナダにあって、実に1%に当たる30万人が間接的に木材産業(林業、輸送、製材、等々)に関わって言われており、GDPの1.25%を(Natural Resources Canada)木材事業に依存しています。また、その収支バランスに目を向けると、カナダの木材は世界の木材事業で一番「貿易黒字」を生み出している産業であり、その重要性が理解できます。

Copyright@David Stanley
ブリティッシュコロンビアの木材

その膨大な貿易黒字を生み出すカナダの木材事業ですが、その最大の輸出国はお隣の「アメリカ」で、実に木材輸出額の7割近くをアメリカに依存している状況で、まさにカナダの木材産業にとって生命線と言えます。

さて、ことの発端は1982年にアメリカの木材産業が、カナダから輸入される針葉樹に相殺関税をかけることを進言したことに遡ります。相殺関税とは、物品が「補助金などの理由」によって、不当に安い値段で輸入された場合発動することのできる措置で、アメリカの木材事業者はカナダの針葉樹は安すぎる、補助金漬けになっているからだ、という主張を始めたわけです。

自由貿易の公平性が成り立つのは、輸出国と輸入国の生産条件が同一である場合に限ります。例えば(※たとえ話です)、日本と中国で米が1000円で作られました、しかし中国の米は補助金ずぶずぶで、国際競争力を高めるため実質100円で販売することができます、といったことがまかり通ってしまうと、世界の米市場は中国の補助金ずぶずぶの米農家に席巻されてしまうこととなり、自国の農業が壊滅します。そうした場合、不当に安くされた製品の自国への輸入を防ぎ、同条件で販売するために、相殺関税を課すことができるというスキームです。

ここからアメリカとカナダの貿易紛争が長い平行線をたどることの理由には、

アメリカ側からしてみたら「カナダの針葉樹は不当に安すぎる、補助金ずぶずぶであり、アメリカの木材産業を壊滅させようとしている」という主張があり

カナダ側からみたら「カナダの針葉樹の安さは企業努力で培われたものであり、相殺関税を課せられるいわれはない。自由貿易の理念に背く」という主張がある点です

結局、情報の非対称性によってもたらされたこの両者の認識の違いは堂々巡りを続け、2006年に締結された米国・カナダ針葉樹材協定によってカナダの針葉樹のアメリカ国内での市場割合が定められたことから、一時停戦状態となりましたが、10年後の2015年にこの協定が失効したため、再び両国間の争いの的となりました。

Copyright @Mari Smith

自ら「関税男」と命名し、自由貿易から保護貿易への路線の変更をおこなったトランプ大統領の任期中に、このカナダの針葉樹への関税圧力は増大、一時は沈静化した貿易紛争が再燃することとなります。このことは、2019年から続いたウッドショック、木材価格の高騰に拍車をかけることにも繋がりました。

自らを関税男と名乗るドナルド元大統領

現在、バイデン政権下で多少は落ち着きを取り戻した米・カナダ二国間による木材紛争問題ですが、未だに両国の間には大きなわだかまりを抱えています。どちらの国の木材産業も、自国の産業を守らなくてはいけないという使命感を抱えている以上、この紛争は当面終わることが無いかも知れません。

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