「ウッドショック」から円安へ 木材市場の動向を調査BLOG DETAIL
2022年頃から円安傾向が続き、一時的な為替介入の効果はあったものの、2023年7月現在では対円140~150円辺りのレンジで高止まりとなりつつあります。さて、この為替の値動きは日本の木材市場にどのような影響を見せるのでしょうか?
コロナ、ウッドショック、戦争、そして木材余り
円安と木材価格の問題に切り込む前に、ここ3~4年の木材価格の乱高下のタイムラインをおさらいしてみたいと思います。
コロナ禍
2019年から約3年間、世界の流通と経済に多大な影響を与えたコロナ禍ですが、大衆やメディアの関心が木材価格に向き始めたのはこのころからだったともいえます。アメリカの低金利政策、コロナによる林業流通の分断とコンテナ不足、すごもり需要、などが原因となり、木材価格は記録的な上昇を続けます。
このころからオイルショックならぬ「ウッドショック」という言葉が用いられ始めるようになり、当ブログでも何度かとりあげました。
戦争
このコロナ禍による木材不足に追い打ちをかけたのが、2022年初頭に開始されたロシアによるウクライナ侵攻戦争です。ヨーロッパの木材供給国である「ロシア」「ベラルーシ」「ウクライナ」の3国からの輸入ルートが遮断されたことで、ヨーロッパの木材市場、特に建築業や家具メーカーは阿鼻叫喚となりました。ドイツでは一時期、電車に用いる枕木やコンテナのパレットさえも手に入らない状況に陥りました。
木材余り
さて、木材流通は農業同様に非常にリードタイムの長い流通経路で知られています。市場の供給がすぐには値段に反映されずらい、つまりは「価格の供給弾力性が小さい」わけで、市場の需要に応じて生産量を増やしたり減らしたりの調整が容易ではありません。
2019年のコロナ禍開始時、一時的に世界の木材需要は冷え込みましたが、その後すごもり需要や金利低下によって一気に過熱、そのタイミングで各国の木材業者は流通の蛇口を全開にしました。木材業者は数か月後~1年後の需要を見込んで発注をかけるため、市場に製材が届くまでにはタイムラグが発生します。
アメリカは金利値上げを決定、新築需要が一気に冷え込むと、木材の需要も落ち込みます。原木価格が下落を続けすぎると、伐採業者はもはや利益が上がらないので伐採自体を拒否、その結果原木の価格は安い一方で、今度は製材の供給量が需要を下回るという奇妙な状態に陥ることになります。
円安は日本の木材市場にどんな影響を与えるのか
2020年に半世紀ぶりに木材自給率が40%台を回復したことがニュースになりました。とはいえ、裏を返せば未だに国内木材の6割は外材に頼っていることは事実であり、要するに円安で円の価値が下がれば、一般的には輸入材のコストはあがります。
住宅製造コスト増と住宅着工数の減
仮に木材価格が全体的に上昇すると、もっとも影響を受ける産業の一つは「住宅」市場です。コロナ期の急速な冷え込みの後、2021、2022年と新築戸数の回復を続けていた新築住宅市場ですが、2023年に入ると2~4月まで三ヶ月続けて減少を続け、特に4月は前年比マイナス10%以上の大幅な下落幅を見せています。
ただ、この新築着工数の減少が円安によるコスト増によるものかどうかは疑問符がつきます。円安による外材の輸入コスト増以外にも、そもそもの日本の人口減少など様々な原因が挙げられますし、円安以外の要素でいえば、例えばアメリカの製材価格は落ち着きを取り戻し、コンテナ運賃指数は過去数ヶ月下落を続けているため、メーカーの実際の価格には特別大きな影響は今のところないとも言えます。
もっとも、この円安のタイミングで、コロナ期のようなウッドショック(コンテナ費増、木材価格増)が訪れたら、国内の新築市場はかなり危機的な局面を迎えるかも知れません。
国産材の活用に回帰するのか?
もう一つ疑問になるのが、円安で外材の値段が上がれば国産材の価格を上回ることとなり、国民の関心は国産材活用に向いて、むしろ国内林業にとって追い風となるのではないか、というポイントです。実際に、農林水産省のデータからは、国産材の価格は2023年に入り下落を続けており、国内材回帰のチャンスのようにも見えます。
そもそも、森林ジャーナリストの田中淳夫さんの問題提起する通り(Wedge Online)、そもそも国産材が外材よりも高いというよりは、国産材の製材が外材に比較して高い、ということが林業の問題であると言えます。実際に、過去の段階でも丸太や原木当たりの価格では国産材のほうが外材よりも安いケースが少なくありません。
過去数十年国内林業をおざなりにした代償か、森林保有者から伐採、製材から加工にいたる林業のサプライチェーン全体の仕組み・安定供給体制が整理されていないことが問題で、最終的に建材など市場に出回る価格が外材よりも高くなることに加え、安定的な供給や、大量供給が約束できない問題が発生してしまう、ということです。この問題は、円安によって多少外材価格が高くなったとしても変わらず、日本林業の流通体制が改善を見せない以上、構造的な変化には至らないとされています。