世界の建築・家具デザインに影響を与えた、ドイツの3大芸術運動BLOG DETAIL

ドイツは、現代につながる建築や家具デザインの発展に大きく寄与した国のひとつです。第一次世界大戦前後の19世紀末から20世紀初頭にかけて、伝統的なスタイルからの脱却や新しい表現方法を求めて建築家・芸術家・デザイナーたちが模索を繰り返し、ドイツでは多くの芸術ムーブメントが興りました。

この時期にドイツで流行したスタイルは20世紀前半にヨーロッパと北米を中心に世界中に広がったモダニズム運動にも多大な影響を与え、100年以上が経過した現在でも新しい作品に取り入れられ続けています。今回は、世界的に伝播したドイツの3大芸術運動:ユーゲント・シュティール、ドイツ機能主義とバウハウス、ドイツ表現主義を紹介します。

1. ユーゲント・シュティール(Jugendstil)

ドイツ語で「青春様式」を意味するユーゲント・シュティール運動は、急速な工業化や都市化など産業や技術の大変革を背景に、伝統的な価値観や文化に反発する若い世代から生まれました。フランスを中心に花開いたアール・ヌーヴォー(新しい芸術)とスタイルが近しく、第一次世界大戦前後の19世紀末から20世紀初頭にかけてミュンヘンやベルリンを中心に発展。その流れはオーストリア、ベルギー、イギリスなどに広がり、アール・ヌーヴォーと共にヨーロッパ中で流行しました。日本にも、少ないながらも一部ユーゲント・シュティールの影響を受けた建築が残っています。

ユーゲント・シュティールの外装

ユーゲント・シュティールの内装

ユーゲント・シュティールはアート、建築や家具デザイン、ファッション、文学・音楽など幅広い分野で流行しました。花・葉など自然から得たモチーフを使った曲線的なデザインと鮮やかな色使いは、見る者に華やかな印象を与えます。この運動の代表的な作家には、グスタフ・クリムト(画家)、ペーター・ベーレンス(建築家・デザイナー)、リヒャルト・リーマーシュミット(建築家・デザイナー)などがいます。

ユーゲント・シュティールの芸術家村「マチルダの丘」

ユーゲント・シュティール運動の目的は、若い世代が自分たちの若々しい感性や芸術的アイデンティティを発揮し、芸術と工業を結び付けることにありました。それまで実用性や生産性重視だった製品にアーティスティックな要素を付け加えることで芸術的価値を高め、美しい製品を作ることを目指したのです。特に、効率化やコスト削減を考えながら工業製品の美的価値を追求したことは、当時としては斬新でした。ユーゲント・シュティールがこのような現実的な視点を持った運動であったことが、のちの芸術運動や現代のデザインに強く影響を与えた理由と言えるでしょう。

2. ドイツ機能主義とバウハウス(Bauhaus)

機能美と産業社会にマッチしたデザインの追求をさらに発展させた20世紀初頭の建築・デザイン運動が、ドイツ機能主義です。建築物や家具はその用途や目的に合わせてデザインされるべきと主張し、新しい技術や素材を積極的に取り入れて、都市計画や社会的機能にまで考慮した広い視野での設計を目指しました。

ドイツ機能主義の思想を体現した教育機関として誕生したのが、バウハウスです。バウハウスは1919年にドイツのワイマールで創設された芸術・デザイン・建築学校、またはその流れを汲むムーブメントを指します。「モダン」デザインの枠組みを作り上げたと言われており、現代の建築・アート分野に絶大な影響を与えました。

色相環を開発したヨハネス・イッテン(芸術家・教育者)や抽象絵画の創始者と言われるヴァシリー・カンディンスキー(画家・美術理論家)など多くの著名な芸術家や教師が教鞭をとり、第二次世界大戦下でナチスからの圧力を受けて解散(1933年)に至るまでの14年間という短い間に、才能あるデザイナー・アーティストを多数輩出しました。閉鎖前まで校長を務めたミース・ファン・デル・ローエをはじめ、多くの教員や学生たちがイギリスやアメリカなどの国々に亡命・移住したことで、その後バウハウスのスタイルは世界的に大きく広がることとなりました。

バウハウス・デッサウ校(初代校長ヴァルター・グロピウスによる設計、1926年)

バウハウスの理念は「芸術と工業の統合」と定められており、ユーゲント・シュティールが目指した方向性と一致していますが、バウハウスが新しかったところは、機能性を最重視したデザインに特化したことです。ユーゲント・シュティールのような装飾的要素を排除する代わりに、シンプルで直線的な形状や幾何学的なデザインを用いることで現代的な機能美を強調しました。

バウハウスの教育プログラムは、デザイン対象の目的や機能を徹底的に熟考し、量産を前提とした素材選びやコスト・生産性への配慮を学生たちに求めました。現代の建築やプロダクトデザイン分野で当然のように捉えられているこの考え方や手法は、バウハウスが創設された当時は斬新なものであり、バウハウスがモダンデザインのパイオニアとして位置付けられる所以と言えます。

バウハウスに特徴的なデザインとして、金属パイプを使った椅子やパーツをユニット化した収納家具、ガラスやスチールを使った建築が有名です。代表的な作品には、 世界初のパイプ椅子として現在も人気の高い「クラブチェア(B3):ワシリーチェア」(マルセル・ブロイヤー、1925年)、X字の構造が斬新な「バルセロナチェア」(ミース・ファン・デル・ローエ、1929年)、バウハウス創設者のヴァルター・グロピウスによるデッサウ校舎や宿泊施設「マイスターハウス」(1926年)などがあります。

バルセロナチェア(第3代校長ミース・ファン・デル・ローエによるデザイン、1929年)

 

3. ドイツ表現主義

ユーゲント・シュティールと時を同じくする第一次世界大戦前後から1920年代にかけて盛んだった芸術・文学運動に、ドイツ表現主義があります。ドイツ表現主義がもっとも重視したのは主観的表現で、客観的表現を排除し、感情や内面世界に基づく表現を追求したことが特徴的でした。

ドイツ表現主義の作家・デザイナーたちは社会的・政治的メッセージを作品やデザインに反映させることも多かったため、ナチス政権下で芸術弾圧の対象になり徐々に衰退していきましたが、その社会批判的な視点は現在のアートや建築、映画や広告デザインに引き継がれていると言われています。

ドイツ表現主義のデザインの特徴は、直線的なデザインを否定し、色彩や感覚表現を重視した点にあります。内面の世界を表現するために意図的に線や形を歪めたり、大胆な色彩を使って対象を抽象化する手法が多く取られました。代表的な建築分野の作品には、流動的デザインでアインシュタイン理論を検証していると言われる「アインシュタイン塔」(エーリヒ・メンデルスゾーン、1921年)や、尖った先端と曲線のファサードデザインが個性を放つ「チリハウス」(フリッツ・ヘーガー、1924年)があります。

チリハウス(フリッツ・ヘーガーによる設計、1924年)

 

4. まとめ

ここで紹介した3つの芸術運動は、互いに影響を与え、影響を受けながら現代ドイツデザインの基盤を作っていきました。実用的で機能性に優れ、かつ見た目も美しいドイツの建築や家具デザインは、今回紹介した3つの芸術運動を含むたくさんのムーブメントを消化し、既存の芸術に反発しながら試行錯誤して確立されてきたのです。

ベルリンの新国立美術館(ミース・ファン・デル・ローエによる設計、1967年)

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