ヨーロッパの木造建築トレンドと森林認証制度BLOG DETAIL

世界的な環境保護への機運の高まりによって、今ヨーロッパでは木造建築ブームが起きています。低層住宅だけでなく中・高層の都市木造も着々と数を増やしており、鉄筋コンクリート造からより環境にやさしい木造へと、環境保全に敏感な人々の関心が集まり、建築需要が高まっています。

その需要を支えているのが、木材を生み出す森林を適切に管理することで持続的な生産・再生体制を維持し、そこに生息する動植物を守ることをコンセプトとして生まれた森林認証制度です。

1. ヨーロッパの木造建築トレンド

木造建築の需要が高まった最大の要因は、木材が他の建築素材と比べて環境負荷が低い点にあります。未来研究所(Zukunftsinstitut)のレポート(※1)によると、鉄骨桁をCLT(Cross-laminated timber:クロス・ラミネーティッド・ティンバー)などの木材ベースの建材に置き換えると、二酸化炭素排出量を木材1トンあたり約10トン削減することができます。さらに、コンクリート製床スラブの代わりに木製の床材を使用すると、二酸化炭素排出量を木材1トン当たり約3.5トン削減できることも報告されています。

木造建築は建物解体時もほぼエネルギーを使わずに解体・リサイクルが可能なため、総じて鉄骨造やコンクリート造と比べて環境にやさしいと言えるでしょう。

2. 木材需要を支える森林認証制度

いくら木が環境にやさしい建材だと言っても、必要以上に需要が高まれば森林破壊につながりかねないという指摘もあります。そのリスクを回避し、持続可能な森林経営をサポートするのが、森林認証制度です。

森林認証制度とは、ひとことで言うと「持続的に森林を管理するための環境ラベリング制度」です。森林を正しく管理していると認定された林業関係者や加工・流通業者が取得することができ、商品に貼付することで、製造業者や消費者はそれをもとに購入判断をすることができます。生産者側としては森林・環境保全に配慮を示すことで企業価値や商品価値を高めることができ、購入者側としては環境保全につながる消費行動を選ぶことができるメリットがあります。

ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を選んで行う投資)が活況を帯びる現在、サステナビリティ経営やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みは企業の信頼と価値を保つために不可欠なものになっています。森林認証制度は、環境や社会に大きな負荷をかけずに生産された製品であることを証明することができるグローバルな仕組みです。

3. 森林認証制度の成り立ちと2大国際制度

森林認証制度は1993年、WWF(世界自然保護基金)を中心とした「FSC認証」が設立されたことから始まりました。森林認証制度には、国内の森林保全と林産業保護を目的とした国内認証と、国を超えた木材調達をスムーズに行うために国際統一基準を採用、あるいは各国の制度を相互認証する国際認証があり、FSCは国際森林認証制度の草分け的存在です。

その後の1999年には、ヨーロッパ11か国の森林制度を相互に認め合うための仕組みとして「汎ヨーロッパ森林認証制度」が発足。2003年には北米やオーストラリアなどヨーロッパ以外の国々が参加し、国際的な認証制度「PEFC認証」へと発展しました。

現在、森林管理協議会(Forest Stewardship Council)が管理するFSC認証と、森林認証制度相互承認プログラム(Programme for the Endorsement of Forest Certification Schemes)が管理するPEFC認証が2大国際制度であり、世界の多くの国々が参加しています。FSCの国際本部はドイツのボンに置かれ、またPEFCの前身も欧州発祥ということで、ヨーロッパは国際的な森林認定制度と深い関わりを持っています。

4. 森林認証制度の役割と効果

森林認証制度の役割は、森林の環境的・社会的・経済的持続性を守ることです。単に森や木材供給を維持することだけでなく、自然と人間との永続的な共生も視野に基準が策定されています。森林認証制度によって期待される効果には、

(1)森林・環境保全
(2)脱炭素への貢献
(3)木材の安定供給

の3つがあります。森林保全は木を絶やさないことだけでなく、水質と土壌の保全や、動植物の食物連鎖の保護にもつながります。人間の生活にもメリットが大きいのは言うまでもなく、 CO2の削減をはじめ、土砂崩れや渇水など森林面積の減少によって起こりやすい災害リスクを抑えることもできます。

EUを筆頭にした世界の国々は、 地球温暖化とそれに起因する異常気象は行き過ぎた森林伐採が原因であるとして脱炭素の動きを加速させています。気候変動問題は2015年に採択されたパリ協定で21世紀後半での解決がターゲティングされ、120以上の国と地域が2050年までにカーボンニュートラルを目指しています。

EUは「欧州グリーンディール」によって、日本は「カーボンニュートラル宣言」によって、2050年までに温室効果ガスの排出量をプラスマイナスゼロにする政策を打ち出していますが、排出量削減と同時に尽力しなければならないのが、森林の維持と新たな緑地化です。森林が持つ二酸化炭素の吸収作用を最大限に活かすことが、各国が掲げる目標達成の近道になるからです。

持続可能な森林経営は、環境保護だけでなく木材の安定供給も実現します。森林を適切に管理することで木が必要以上に伐採されることなく、再生サイクルも考慮した運用が行われるからです。供給量だけでなく価格も安定するため、管理者・生産者にとってもメリットの大きい制度なのです。

【出典・参考】
※1:Oona Horx Strathern. Zukunftsinstitut. “Home Report 2022 ”. 2022.

・Zukunftsinstitut. “ Holzzeitalter: Warum das Baumaterial der Stunde eine große Zukunft hat”.(2023年3月参照)
PEFC
SGEC/PEFCジャパン
・林野庁. 「 主な森林認証の概要」. (2023年3月参照)
・国際環境NGO FoE Japan 森林プログラム. 「 世界の主要な森林認証制度の現状と評価 ~ CSA、SFI、FSC、PEFC の比較 ~」(PDF). 2004年8月.

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