【国産家具vs輸入家具】それぞれのメリット・デメリットを解説しますBLOG DETAIL
その国の持つ産業は、長い歴史やその国の風土、職人の伝統などによって脈々と受け継がれてきたものの一端であり、時風やトレンドに応じて付け焼刃で身につくものではありません。日本企業の得意とする精密機械や自動車産業も、明治維新以前から日本の土壌に備わった勤勉さ、職人気質が結実したものであり、単に西洋の文化をコピーして備わったものではない点に注意が必要です。
家具に関しても同様、こんにち製作・販売されている国産家具は律令時代から大切に受け継いできた日本の職人技術の末枝と言えるでしょう。今回の記事では、日本で製造される「国産家具」と海外から輸入される「輸入家具」の2カテゴリに焦点を当て、それぞれのメリット・デメリットを論じていきたいと思います。
国産家具vs輸入家具の歴史
近代化以前から日本各地には木工を生業とする職人技術が存在していました。あるものは船大工として、あるものは築城向けの大工、あるものは武器製造職人、と国土の3分の2が森林に囲まれた日本という国にあって、木材と経済は切っても切れない関係にあり、そういった意味で木工や木工職人という概念は古くから存在していたわけです。
やがて戦国の世が終わり、同時に戦国時代を彩った築城や造船の需要が失われていくと、土着の大工たちは家具職人として新たなキャリアを辿ることとなります(詳細に関しては「【大川家具480年の歴史】なぜ大川の家具は世界最高水準なのか」を参照)。近代化が始まるまでは主に地産地消、地元やその周辺地域での販売に留まっていましたが、やがて物流のためのインフラや手段が整備され、乾燥工程や木工機械といった木材周辺の技術が発展していくと、各地で名を馳せた家具の名産地は、全国的に家具の販売を開始します。
大戦期に危機を迎えた日本のモノづくり体制ですが、その後は復興需要、ベビーブーム、高度経済成長期といった経済的、社会的要因に支えられ、日本の経済を牽引する主要産業の一つに数えられるほどに進化を遂げていくことになりました。職人を大切にする日本の文化的土壌に加え、日本の地方中小企業の得意とする木材の調達から卸までの一貫した地域ネットワーク、木工機械などの進歩、政府の輸出促進などに後押しされて、国産家具は昭和後期~平成初期に全盛期を迎えます。
もっとも、その後のバブル崩壊と失われた20年の長期経済低迷、人口動態の変化や婚礼文化の変遷など様々な要因が重なり、そこからの30年余で日本の誇る家具生産量は減少していくこととなりました。それと対照的に、安価な労働力を武器に東南アジアや中国の家具の輸入高が増加しはじめ、2016年における木製家具の輸入品浸透率は30%に達しています(1990年時点での輸入浸透率は約4%)。
海外メーカー家具は優良品なのか?
国産家具vs輸入家具の二元論による比較がなされることがありますが、実際にそれぞれの持つアドバンテージは製造者(メーカー)、製造国、材料、室内の気候条件、家族構成、用途等によって異なる点に注意が必要です。
家具生産のみならず、ビジネス活動の常として、機械化された工場システムによる大量生産体制が整い、コンテナ等を用いた大きなロットでの仕入れや大きな倉庫による管理が可能になると、1製品当たりの販売価格が逓減されます。そして、工場から出荷される物量が大きくなればなるほど工場側は原材料を一括大量入荷できるため、材料原価が安価になり、さらに製造コストが抑えられるという好循環に陥ります。
そうなると、某スウェーデンの家具メーカーのように世界中に販売網を持つ企業や、中国・東南アジアメーカーのように安価な労働資本を大量に投入できる企業こそ、膨大なスケールメリットを武器に安価で良質な生産体制を整えられることになり、消費者としてはこういった企業の製品を買うことが最適解のようにも見えますが、実際には完全画一化された製品を世界中の消費者に気に入ってもらうことは不可能なわけで、各国の嗜好、流行、文化、体格、気候条件などに適したローカライズが必要となってきます。国や地域ごとにこの製品の差分が大きいほど、大手メーカーはロットごとに規格の変更を余儀なくされるわけで、単に「安価で画一化された大量生産体制を整えた」製品だけでは成功しづらくなります。
世俗化されたグローバリゼーションに反論を述べた名著「コークの味は国ごとに違うべきか」の中でパンカジ・ゲマワット教授は、こうした国ごとの持つ差異を「文化的」「制度的」「地理的」「経済的」の4つに分類し、むしろ大量生産体制を整え世界各地に販売網を広げたグローバル企業は現地企業に対して不利を抱えるケースもあると指摘します。要するに、世界で売れている人気の製品=日本でも良い製品、とはならないというわけです。
家具の例を見てみましょう。ヨーロッパの家具を日本に輸入しようと思うと、使用する家具の大きさ(国民の体格)、付属品との適合性(椅子とテーブルの大きさの違いなど)、日欧の気候差(材料の湿度による収縮など)、材料による輸入規制(ワシントン条約に該当する樹種等)、日本への輸出に伴うコンテナの確保、など上述の通り「文化的」「制度的」「地理的」「経済的」な障壁が思いつきます。日本という市場で地場の家具メーカーを相手に戦うためには、こうした問題を解決したり、他のアドバンテージ(ブランド名等)で相殺するなどして乗り越えていくことになります。その過程では、製品自体に価格を上乗せしてこうした諸経費を相殺することもあり、本来メーカーの備えていた「画一化された大量生産体制」の強みが失われていくこともあるでしょう。
畢竟、製品のクオリティとは「誰がどこでなんの用途で使用するのか」によって評価基準が異なってくるため、単純に「国産家具」と「輸入家具」のどちらのクオリティが良いかを論じることは難しいと言えます。素材自体の耐久性をとっても、欧州の気候条件や文化的条件では強みを発揮する製品が、高温多湿の日本では弱体化してしまうといった例も挙げられるわけです。
国産家具を購入するメリット
国産家具と言っても、厳密には「製造工程の全部~ほとんどが日本で行われている家具」「工程の大半が海外にアウトソースされている家具」「日系企業が海外で製造している家具」とありますが、ここでは「製造工程の全部~ほとんどが日本で行われている家具」に絞って説明を行いたいと思います。
日本の気候条件に即している
国産家具であること、輸入家具であることが必ずしも、高品質・低品質の判断基準とはなりませんが、一般的に国産家具のほうが「日本の文化に即した」製品である可能性が高いと言えるでしょう。日本の家具生産地として有名な土地の中には、飛騨や福岡県の大川市、徳島県徳島市のように、律令制の時代や室町時代から家具職人としての歴史を持つ土地もあり、職人たちは何百年も、日本人の好みとするサイズ、形状、日本の気候条件に適した家具作り、といった課題に向き合ってきたわけです。
その国に自生する樹木と、それらを使用して作られた家具は一般的にその国の気候条件に適した特性を持ちます。高温多湿環境で育つ東南アジア産の樹木を使用した家具は、日本の冬の乾燥によってひび割れ(製造・乾燥工程にもよりますが)を起きるという報告がなされたり、逆に北欧の樹木なども製造工程によってはたわみをもたらします。こうした「製品不良」は、その国の職人技術の問題というよりも、特定の国の特殊な気候条件を考慮に入れていない場合に起こりえる問題であり、特に夏は高温多湿、冬は乾燥、という世界でも類をみない過酷な気候条件を持つ島国である日本に木質家具を持ち込む際は、一層の注意が必要となります。
年間の湿度レベルが安定的な国では、木材の乾燥工程がショートカットされるケースもありますが、本来であれば人工乾燥であっても3ヶ月程度、自然乾燥であれば1年程度は時間をかけての木材の乾燥が望ましく、そうした努力を要しない気候条件の国の木質素材を日本に持ち込むと、製品不良の原因となります(ただし、製品自体の瑕疵ではないため一般的にメーカーの保証外)。
日本人のサイズに適している
輸入家具の中には日本のメーカーがもつ海外工場などで製造されている製品なども含まれるため、全てが全てとは言えませんが、一般的に国産家具のほうが日本人の体格にあうように作られていると言えるでしょう。
例えば日本のダイニングテーブルの高さは日本人の身長に合わせ70㎝前後に設定されていますが、世界有数の「高身長」国であるドイツ(男性の平均身長で180㎝程度)などではその身長にあわせ高さ76㎝前後のダイニングテーブルが一般的です。当然、椅子もそれと似たように高く設定して作られているため、仮に机と椅子とを別々に購入するとミスマッチを感じることとなるでしょう。
使いづらいというだけならまだしも、自身の体格にあわない家具を使用し続けると体調不良や骨の歪みといった健康被害にも繋がります。在宅ワークが一般化し家庭内で過ごす時間が増えた昨今では、特に家具には自身の体に見合ったものを使用すべきでしょう。
製造者の顔が見える
メーカーにもよりますが、一般的に国産家具であればその製造者の顔であったり、製造している地域の特色など、その家具の背景にあるものが伝わってきやすいと言えます。作り手の顔や地域ごとのストーリーが認識できると、海外の匿名の工場作業員によって大量生産され消費されていく製品とは異なった愛着というものが生まれやすいのではないでしょうか。
戦国時代の船大工をその源流にもつ大川家具、江戸時代の普請の際の大工たちの流れをくむ静岡家具、北海道の大自然を背景に作成された旭川家具など、こうした家具の産地ごとの歴史を紐解いていくと、なぜこういった土地に名産家具が生まれるのかといった歴史に思いを馳せ、自宅の家具選びがまた味わい深いものになることでしょう。
アフターサービス
こちらもメーカーによりますが、日本の家具メーカーや家具産地であれば、その作り手のブランドや名声にも関わってくるため、将来的な保証やアフターサービスをおろそかにすることは一般的にはありません。また、日本という職人大国の宿命として、やはり自身の製造したモノに関しては、製作後も責任を持つといった固有の良識・文化を持つと言えるでしょう。
対して、海外の作り手の場合、メーカーとの直接の交渉は困難になってくるため、場合によっては国内の販売代理店を介してだったり、OEMの元請けを介して保証を求めることになりますが、競争の激しいアジアの製造元などでは作り手の会社がすでに存在しない、と言ったことも多々あり、そうした場合保証を受けられないことも考えられます。
また、金具や取っ手など、輸入家具固有の部品が破損した場合、こうした部品を海外から取り寄せる必要が生じるなど、国産品と比較してメンテナンスの費用がかさむことも多々生じます。
輸入家具を購入するメリット
輸入家具の中にも、東南アジアや中国で製造された「安価さ」を武器とする輸入家具、あるいはヨーロッパや北米で製造された「デザイン」や「特殊技術」を武器とする輸入家具のパターンが考えられます。これらのターゲットとする市場は正反対となるように、一概に「輸入家具」を総まとめにして論じることはできないため、あくまで特徴としてあてはまることの多い輸入家具のメリットを下記に挙げていくこととします。
ユニークなデザインを購入できる
日本で普及している家具のメインストリームは国産家具、あるいは国産家具を模して製造された家具となり、逆にヨーロッパや北米から持ち込まれるような輸入家具は日本で流通していない、ユニークな家具であることが多いと言えます。また、東南アジア産などであっても、チークやカリンなど、貴重な南洋材を用いたもの、民族柄を模したモノ、なども存在し、総じて「他人と異なるデザイン」が好きな人には響くことでしょう。
こうした特殊なデザインの輸入家具は、日本式の部屋にポツンと置かれて持ち味を発揮するというより、南欧風のインテリアだったり、エスニック系のインテリアを合わせて効果を発揮することが多いと言えます。どうしても日本人の体格に適した、似たような間取りとなることの多い日本の中では、こうしたユニークなデザインの家具が大々的にシェアを握ることはありませんが、一定層のファンを持つことで市場を形成しています。
もっとも、国産家具メーカーの中にも独特なデザイン、海外風のインテリアに即した家具等に力を入れている会社は少なくありません。顧客層のニーズによって市場が細分化されていく中、このようにデザインなどを武器に差別化を図る動きが見られており、国産家具メーカーの中にも変化が見られているのは面白い特徴と言えるでしょう。
日本にはない技術の家具を購入できる
家具産業のグローバル市場における競争は苛烈なため、特にEU経済圏内の熾烈な貿易競争に晒されているイタリアやドイツ、北欧の家具メーカーの中には、自国や地域の特性を武器にした家具作成に活かしているところも少なくありません(ドイツであれば染色、化学技術、イタリアであれば繊維、等)。
こうした一点特化型の武器を背景に市場シェアを獲得したメーカーの作る製品は、突き抜けた特殊な技術や特許を持ち、他社には真似できないような強みを持つことがあります。