フィトンチッドは疑似科学ではない?木材のもたらす真の効果を知ろうBLOG DETAIL

「木材は健康に良い」というのは、何となく感覚的にわかることであっても、具体的にどうして健康に良いのか、言葉にして説明できる人は少ないのではないでしょうか。木材の持つ、触感、木目のパターン、においなど、切り口によって色々な効果が立証されています。

さて、木材の持つ良い効果の一つに「リラックス効果」というものがあり、フィトンチッドという用語と紐づいて説明されることが多々あります。この、怪しい「フィトンチッド」という概念、一体どこまで信頼できるものなのでしょうか?木材の持つ効能と合わせ、解説を行いたいと思います。

フィトンチッドの定義と効果

森林浴や自然素材の建材などとよくセットで出てくる用語「フィトンチッド」ですが、具体的にはどのような意味合いを持つのでしょうか?農林水産省のHPによると、フィトンチッドに関して以下のような定義がされています。

一般(いっぱん)に、リフレッシュ効果(こうか)などの森林浴効果をもたらす森林のかおりをフィトンチッドといいます。おもに樹木(じゅもく)が発散する揮発性(きはつせい)物質(ぶっしつ)で、そのおもな成分は、テルペン類とよばれる有機化合物です。本来は樹木が自分自身をまもるために発散するものですが、リフレッシュ、消臭(しょうしゅう)・脱臭(だっしゅう)、抗菌(こうきん)・防虫(ぼうちゅう)など人体やくらしに有益(ゆうえき)な効用(こうよう)が知られています
(引用元:農林水産省)

そもそも化学的に「フィトンチッド」という物質が単体で存在するわけではありません。ヒノキのような針葉樹の成分を一つ紐解いてみても「αピネン」「リモネン」「樟脳」「ボルニルアセテート」などのテルペン類によって構成されていることが分かりますが、これらは樹木を天敵である微生物や害虫を妨げる防虫・抗菌効果を持ち、それらを総称して「フィトンチッド」と呼ばれているわけです。

フィトンチッドの本来の意味はロシアのトーキン教授によって名付けられた「Phyton(植物の)」「Cide(殺す)」であり、文字通り植物の防衛機能である抗菌・防虫が語源となっています。

こうした木そのものが持つ防衛機能が、木材となっても長くその性質を保ち続け、自然素材や木材建材の良さとセットで理解されることが少なくありません。さて、それが我々の暮らしや人体に具体的にどのような良い影響を及ぼすのでしょうか。

フィトンチッドの効果

一般的に言われるフィトンチッド自体の効能には、以下のようなものが挙げられます。

  • 抗菌・防虫・防カビ
  • ストレス軽減・リラックス効果
  • 睡眠を安定させる
  • 抗がん剤としての活用
  • 更年期障害の改善
  • 鎮静剤効果
  • 消臭効果

最も、こうした人体へのポジティブな効果は、あくまで適した使用法・容量を守らないと効果がありません。フィトンチッドの主たる成分であるテルペンは揮発性物質の一種でもあり、濃度の高いテルペンはむしろ人体に有害とされています。

実際に、巷説、誤った理解をして「フィトンチッド万能説」が唱えられているケースをよく見かけるが、実際には魔法道具ではないことを理解しなくてはいけません。木そのものが防衛機能を持つことが曲解され、そのまま「木質建材を使うこと」「森林浴をおこなうこと」「木に触れること」「ヒノキ由来の精油を使うこと」などすべて一緒くたに「良いこと」と片付けられていますが、実際には異なります。

森林浴で効果があるのか、どの季節になるとフィトンチッドが出やすいのか、植物オイルを抽出した状況で効果が出るのか、抗がん剤として効果があるのはどの成分か、など、なんとなく木の成分が体に良いことは感覚的に理解できますが、科学的裏付けをもって明確な回答をおこなえるのものは実は限られているのです。

以下、フィトンチッド、あるいは森林浴に関して科学的な裏付けの取れた報告・研究レポートについていくつかまとめました。

上記、様々な研究結果を見ても分かる通り、フィトンチッドの効果は限定的な環境下(精油化したもの、研究室での短期間の計測、など)で測定されたもので、長期的な人体への影響に関しては実験の難しさも相まって立証されていないことが少なくありません。

特に、多くの研究が「森林浴」と「フィトンチッド」を混同してはならないと警鐘をならしています。実際には森林浴による健康効果には「運動」や「日光浴」などの他の因子も組み合わさっており、人体に現れたポジティブな効果のすべてがフィトンチッドのおかげというのは早計でしょう。

内装材にフィトンチッド効果はあるのか?

ここで一つ疑問になるのが、森林や抽出オイルには殺菌、防虫、ストレス軽減効果などがあることが分かったが、これらの効果を日々の生活で享受するにはどうしたらよいのだろうか?

伐採後の木材が長らく森林や林と同様の防虫、抗菌、リラックス効果を持つことは広く知られています。古くは江戸時代から、寿司を乗せる寿司下駄やカマボコ板は抗菌効果をもつヒノキ材が用いられたりと、木材製品として転用されてのちも、木は抗菌・酸化防止機能を一定時間持ち続けることが認められています。

寿司下駄には古くからヒノキが用いられている

直近では大阪府環境農林水産総合研究所と大和ハウス工業の共同研究である「スギ材設置室内空間におけるテルペン類の調査」の中でも、伐採された木材としての建材が実際にリラックス効果を保つことが示されています。

ただし、その効果については長期的ではあっても、どこまで永続的効果を持ち続けるのか、に関しては実験にかかる期間の長さなどから、実験結果が乏しく、断定的な結果が得られていません。

国立研究開発法人森林研究所は「スギ内装材を施工した実験室での揮発性有機化合物濃度の経時変化」の研究の中でスギ内装材に含まれるテルペンの放出量を2年間にわたって調べていますが、2年後には施工直後に比べ室内のテルペン量は0.15%にまで低減しているという結論をくだしています。

一方で、2007年に発表された三重研研報によると、じっくりと乾燥させたスギ材においては、日数が経つにつれて表面からの急速なテルペンの発散から材の中心部に残留するテルペンのゆっくりとした発散へと移行し、長期的に快適な住空間を醸すのに貢献すると述べています。

法隆寺の柱は1300年前に作られたヒノキ材ですが、今でも表面を鉋で削ればうっすらとヒノキの芳香が漂うといいます。我々の身近にありつつも、いまだに神秘のベールに包まれた側面の多い「木材」の持つ可能性に、我々は今一度目を向けるべきかもしれません。

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