【ウッドショックの闇】世界の違法伐採と木材マフィアについてBLOG DETAIL

コロナ下でのウッドショックと国内における木材価格の急激な高騰は、木材が永続的に安定供給可能な資源ではないということを我々に改めて思い知らせる契機となったのではないでしょうか。

木材(資源)価格の高騰によって損をした人たちが大勢いる一方で、得をした人々もいます。商社は軒並み2021年春先には最高益をたたき出しました。木材の供給源である東南アジアや東欧に目をむけると、「木材マフィア」がさながらダイヤモンドの違法取引のように跋扈し、違法伐採・密輸出入をおこなっています。

今回は、我々木材に関わる人々にとっても他人事ではない「違法伐採事情」について解説をおこないます。

違法伐採とは・各国の現状について

違法伐採とは文字通り正規のプロセスを経ずに取引(植樹・伐採・加工・販売)された木材資源のことで、具体的には以下のようなプロセスが「違法伐採」やそれに類する行為に当てはまります。

  • 盗伐
  • 脱税行為によって売買された木材
  • 保護樹林の伐採
  • 書類の偽造
  • 密輸入行為

具体的にどれくらいの量がどの国で違法に伐採されているのかを突き止めるのは、その行為が文字通り違法行為であるために統計的なデータ収集が難しく、あくまで概算として世界で流通する木材資源の「20~40%程度」が違法伐採による木材資源だと言われています。

特に木材資源が豊富で、現地の経済水準が不安定、かつ管理の目が届かないほど広大な土地を持つ「東南アジア」「ロシア・東欧」「ブラジル」「アフリカ」などが違法伐採の温床とされており、特に東南アジアに目を向けると市場に出回る量の「50~90%」がこの違法伐採による木材資源ではないかと言われています。

特にたちが悪いことに、こうした違法伐採の裏で暗躍する「木材マフィア(Timber Mafia)」と呼ばれる人物たちは、往々にしてその国の官僚や政治家であり、市ぐるみで先進国のメーカーや資本家とつるんで違法伐採や環境を考えない原生林の破壊行為にいそしんでいることが少なくないという点です。

The Ukrainian state forestry authority is proving to be just as corrupt as its Romanian counterpart. Its former head used to play tennis with the former President, Viktor Yanukovych, and was especially creative when it came to taking bribes. “In order to keep the timber well below the market price, foreign companies were willing to make payments to letter-box companies registered in Belize and Panama in the name of his wife,” says Tara Ganesh of Earthsight. “The head of the forestry authority is accused of having pocketed bribes from four timber companies to the tune of 13.6 million euros between 2011 and 2014 – and one of those companies was Schweighofer.”
「ウクライナの国営林業公社は、ルーマニアと同じように腐敗している。林業公社の元代表は、元大統領のヤヌコビッチとテニスをしたこともあり、賄賂の受け取り方も巧妙だった。「木材を市場価格よりかなり安く抑えるために、外国企業は彼の妻名義でベリーズとパナマに登録されたペーパー企業に喜んで支払いを行った」とジャーナリストは述べた。「林業当局のトップは、2011年から2014年の間に、4つの木材会社から1360万ユーロの賄賂を懐に入れたと告発されており、そのうちの1社がシュヴァイトホーファーでした。」
出典:Voxeurop

Pakistan’s timber gangs operate freely in many parts of the country, profiting from illegal logging often with the backing of local officials and that poses a big problem for fledgling efforts to stem deforestation. Pakistan’s timber mafia is made up of organized gangs that cut trees from state-owned forests and sell them illegally, often working at night.
「パキスタンの木材マフィアは、国内各地で自由に活動し、しばしば地元当局の支援を得て違法伐採から利益を得ており、森林破壊を食い止めるための初期の取り組みに大きな問題を投げかけている。彼らは、国有林から木を切り出し、違法に販売する組織的なギャングで構成されており、しばしば夜間に活動しています。」
出典:Voive of People

こうした事例は各国の記事を検索すれば無数に出てきますが、日本ではあまり知られていません。

違法伐採はなぜ問題なのか

巷で脚光を浴びているSDGs(Sustainable Development Goals)の語源を辿ると「経済」「環境」「社会」がバランスよく発展を遂げられるような社会のようなことで、「経済だけ」あるいは「環境だけ」に配慮されたような社会システムや製品というものはSDGsの基本概念から外れます。

違法伐採の問題点は、このSDGsの3つの軸である「経済」「環境」「社会」の持続可能な発展に著しい損害を与えることで、単なる「環境破壊」にとどまりません。すなわち

  • 持続可能な森林資源の減少
  • 温暖化の加速
  • 土砂崩れ、洪水など災害の発生
  • 熱帯雨林の生物多様性の消滅
  • 現地動物の住処の減少
  • 現地住民の生活水準の悪化
  • 現地マフィアやテロリストの資金源となる

などが違法伐採のもたらす問題とみなされています。こうした出来事は、インドネシアやブラジルの奥地で起きようが、対岸の火事で片付けられません。

植樹計画を無視した伐採や盗伐は長期的な森林資源の減少、価格の高騰を招き、我々の生活を脅かします。温暖化(諸説あるとはいえ)は、基本的には二酸化炭素を吸って酸素を放出する森林の働きによって抑制されている以上、この森林面積が違法に減少していくことは温暖化を助長するでしょう。

動物や生物多様性の減少も、単なる「可哀想な動物たち」という一言では片付けられません。我々の生活は危うい生物多様性のバランスのうえに成り立っているのであり、そこから仮に一つでもピースが抜け落ちると人類にも大きな混乱がもたらされます。ハトを駆除して2000万人が餓死した中国の大躍進時代が良い例でしょう。また、動物のもつ固有の遺伝子は、我々の病気治療や長寿のヒントとして医療分野で広く使われています。

現地住民の生活が脅かされ食い扶持を失うと、マフィアや違法・犯罪行為に身を投じます。ゆがんだ経済構造が行き過ぎた場合は戦争や内紛を引き起こし、その余波が我々にもいきつくことは911テロやイスラム国の例で学んだのではないでしょうか。

注意しなくてはいけないのは、「違法伐採」と「合法的な伐採」のもたらす問題を混同してはいけない、という点です。森林面積減少という側面を切り取って「違法伐採だけでなく、総じて木材の使用は環境に悪い」という極端な見解を述べる識者もありますが、実際には「我々が生きて、経済活動を行わなくてはいけない」以上、なにか資源を使わなくてはいけず、他の資源に比べると木材の使用ははるかにエコです。

一軒の家を建てるさいに使用する様々な建材を作るまでに放出される炭素の量を比較してみましょう。天然乾燥製材の場合で15kg/m3, 合板やコンクリートの場合で120㎏/m3, 鋼材の場合で5320㎏/m2, アルミニウムに至っては22000㎏/m2です。

(中島正夫ら「建築に役立つ木材・木質材料学」を元に作成)

京大の井上雅文農学教授がその著書の中で語る以下の文章が、木材資源の正しい仕様こそがSDGsの未来に即したものであることを示しているのではないでしょうか。

アルミや鉄などの材料は、製造時に大量の炭素を放出するだけでなく、できあがった製品の中に炭素をまったく含んでいない。それに対し、木材は、製造時の炭素放出量が少ないばかりでなく・・個体として固定された炭素を補完し続ける・・「生長した樹木は伐って木材として使う」・・そして「伐った後には必ず苗木を植える」ことが、結果的に大気中の炭酸ガスを減少させることになるのである
出典:木材なんでも小事典 80p

消費者ができること

さて、我々が消費者としてこうした違法伐採にストップをかけることはできるのでしょうか。

こうした「持続可能な社会」に向けた意識が定着するには、国からの働きかけ(トップダウン)と、国民の意識の改善(ボトムアップ)の両方向からのアプローチが必要です。

国からのアプローチとしては、グリーン購入法に基づいた商品の購入であったり、木材製品であれば「FSC」や「PEFC」の認定を受けた製品の購入が推奨されます。FSCやPEFCは異なる認証ですが、根本的な理念である「持続可能な木材資源」であることの証明であり、その木材が違法伐採されていない、現地の動物の住処を損なわず、しっかりとプラン立って植樹活動がされていることを示しています。

消費者庁調査を元に作成)

国民意識としても、例えば環境や持続可能な社会に配慮した製品を優先的に購入する「エシカル消費」の指標も国民の中で浸透しつつあり、製品カテゴリによりますが、全体の4~6割程度がエシカル商品の購入に前向きです。消費者の意識がこうした「エコ」に向けば、メーカー側もおのずとエシカルな商品の開発に力をいれるようになり、逆に悪徳木材などは市場から駆逐されるでしょう。

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